第5話 蝕

 少し前から好きなものを全て食べてしまいたい衝動に駆られている。花、真珠、屑ダイヤモンド、猫の頭部。私はそれらを象徴として飲み込む。


 愛しているから、そうせずにはいられないのだ。あんまりにも愛らしいから、自分の一部にしたいと思うのだ。子供が欲しいと思う感覚に近いのかもしれない。


 花はエディブルフラワーなんてものがあるから食べる機会はあるけれど、本音を言えばそこら辺の道端に生えてる花を、むしって、口の中で潰して、飲み込みたい。


 真珠は一飲みにできそうだけど、なかなかもったいなくて実行できずにいる。CaCO3はちゃんと消化されるのだろうか。かの有名なクレオパトラは真珠を酢に溶かして飲んでいたらしい。


 屑ダイヤモンドは天の川のよう、きらきらと繊細に煌く粉砂糖のよう。


 猫はちょっと可哀想だな。でも見ているといつも食べてみたくなる。特に頭。可哀想だと思うから、余計に食べたくなるのかな?


 単純に、かぶりついたらしっくり来る気がしてるだけ。噛みついて、噛み砕いて、飲み込んでやろうだなんて思わないから、ただとりあえず口の中に入れて顎を動かしてみたい。






 少し前から食べてみたいと思っている人間がいる。残念ながら遠くにいるから、なかなか実行する機会には恵まれないけれど。


 あるいは食べられてみたい。どちらでも良いのだ。これは愛というよりかは好奇心に近いのかもしれない。


 毒見。始めは、まず、触ってみる。次に、対象を切って触ってみる。続いて、それを口に入れてみる。噛んでみる。最後に飲み込んで、しばらく様子を見て、やっと毒見は終わる。


 そうでないならば、私は不思議の国で待つケーキのように、「私を食べて」と呟いて、喉を掻き切って死ぬだろう。






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