めいどかふぇ その19

 ドッペル君は満面の笑顔ですけど、目が笑ってません。これはもうアレですね、どうせ恥ずかしい思いをするなら、死なば諸共、なんでしょう。


 やってみると結構楽しいんですけどね~アレって。……そんな予防線を張られても自分はやるつもりはない、です? ちっ、気付かれましたか。


「それじゃあお嬢様、魔法の言葉と動きは説明しなくても大丈夫かにゃ?」

「……ん、だいじょぶ」


「それは良かったにゃ。よぉし、一緒にカレーライスを美味しくするにゃん!」

「そだね。……あはは、やってやろうじゃん……!」


 覚悟を決めたのか、はたまたやけくそか、深呼吸を繰り返す毬夢ちゃん。そのただならぬ空気に、さしもの莉央ちゃんも戸惑いを隠せないみたいですね。


 莉央ちゃん達のテーブルの隣にいる団体客が、その異様な空気に気付いたか会話を止めました。おかしいですね。これってこんな厳粛な儀式とかじゃなくて、もっと気軽にやるもののはずなんですけど。


(さて、覚悟を決めろ……行くぜっ!)


「……せーのっ、萌えキュンにゃにゃにゃで美味しくなぁれっ♪」

『にゃん♪ にゃん♪』


 渾身の甘ったるさを纏った声、そして全力の猫ポーズ。


おぉぉぉぉ! と歓声の上がる隣のテーブル。ドッペル君と鏡合わせのように猫ポーズで固まる毬夢ちゃん。


 ていうか、ドッペル君はともかく毬夢ちゃん、やり切りましたね。明らかに気合の入ったそのポーズは、微妙に恥じらってるのも含めてとても可愛らしいです。


 口が開きっぱなしの莉央ちゃんと、漂うしばしの無言。……分かりますか? 今、このラグドールカレーライスには筆舌に尽くしがたい何らかの犠牲のもと、美味しくなる魔法が掛けられたわけです。


 美味しくなってなかったら訴えていいんじゃないでしょうか。いやまぁ、多分勝てないでしょうけど。



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