第18話 再 再会

 今、助けるべきなのはキーだ。

 無論、《ネオ・サピエンス第三世代》の実験台にさせられている人たちも助けないといけないけれど、優先順位で言ったら、キーだ。

「でも、彼女の居場所が分からないんじゃどうしようも無いんじゃないのか?」

「いや、分かるわよ」


「え!?」

 彼女はパソコンを操作して、

「そこのドアを出て、まっすぐ行くと『魔術研究室』があるらィしいわよ。彼女は恐らくそこにいるわ」

「それじゃ、早速行こう」

「うん」


 パソコンを閉じて僕たちは走る。

 全力で。

 高らかな足音がリズミカルに鳴る。

 何処までも続く銀色の金属壁。


「ほら、あそこよ!!」

 時雨は前方を指さす。


「あれって……」

 正面に見えたもの。

 四メートルはある扉が開いているその先にあったものは――――。


 大きな培養液に浸されたキーだった。

 彼女は、幼児体形な体を産まれたままの姿で晒していた。

 ――――緑色の培養液。

 ――――培養液を包んでいる透明な鳥籠には、幾つもの金属の管が絡まり合っている。

 ――――彼女を捕らえる培養液の籠の地面には、巨大な紫色の一重の魔法陣。

 それも、唯の魔法陣では無さそうだ。

 その中に描かれているのは、幾重もの複雑な魔術式。

 培養体に繋がる管にも魔術式のような瑠璃色の紋様が浮かび上がっている。


「キー!!」

 もう、我慢できない。

 彼女の姿を目にしたとき、本能が『走れ』と叫んだ。


 地面を蹴り、彼女の元へ疾走する。

「ちょっと、金石くん!?」

 呼び止めようとする彼女の声は、儚く空へ消散する。


 陶器のような透明な肌。

 髪は金色に紡がれた絹のように線が細く、美麗な輝きを放つ。

 端正な顔に埋め込まれた瞳は、髪と同じ黄金。

 小さな唇は桜色に染色され、光は唇を艶やかに演出させている。


 人形ではないかと見間違えてしまいそうな彼女の裸体は、期待に反し、生きた人間そのものだ。


 あと少し。

 あと少しで彼女に手が届きそうなのに……。


 神域に足を踏み入れた瞬間――――。

 真紅のレーザー光線が飛んできた。


 右二、左一だ。

 視覚は三つの光線を捉えるが、体が反応しない。

 人間の反射神経速度を超越している。

 不可能だ。


 その瞬間、もう一つ彼の視界に飛び込んだものがあった。

 ――――魔弾。

 そう、網膜が認識した時には、それらは衝突し合い、消滅していた。


「もう。ほんとあっぶないんだから!! ここは敵の領域なんだから気を抜かないでよね」

 声のする方を振り向くと、時雨が駆け足でこちらへ走ってきていた。

 安堵の溜息。

「ありがとう。時雨。本当に助かった」


 時雨は苦笑の表情を浮かべ、

「本当よ。危機一髪だったわ。それ以外に何か私に言うことがあるんじゃない?」

 数秒の間を置いて、

「ご、ごめん」

「うむ。よろしい。それよりも……」


 前方を向く。

 そこには、鳥籠に囚われたキー。

 その周囲には、彼女を守るように左右二本ずつ――――四本の鉄鋼の触手が空中に蠢いている。

 その一本一本に、レーダーを発射する口を鋭利な四本の牙が包んでいる。


「あの気持ち悪い奴を倒さないとあの子を助けることはでき無さそうね」

「うん」


「それじゃ、私が先に行くわ。金石君は私を援助して」

「はい!!」

 戦闘が始まった。

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