第12話引き金を引く覚悟
「取り敢えず、ここに隠れましょう」
そう言って、時雨と僕は大きな倉庫に身を潜めた。
彼女は至って冷静だった。
こういう状況に慣れているのだろうか。
倉庫はビル10階建て位までの高さがあり、見上げないといけないほど大きい。
その倉庫の中から人の声が聞こえてきた。
「侵入者が出てきたらしいぜ。発砲許可も出ている」
「つまり、殺していいって事だよな」
かなり、物騒な話をしている。
当然、僕たちのことだろう。
「人型魔装兵器ホムンクルスになるのはいいんだがな……。そういや、新型を開発したんだっけ? なんでも、能力者専用の人型魔装兵器ホムンクルスだとか……」
「おいおい。まじかよ!」
かなり大声で話し合っているのもあって、中の会話がダダ漏れであった。
「なるほど。この中には人型魔装魔装兵器ホムンクルスが収納されているのね。いいことを聴いたわ」
彼女はニヤリと悪魔の微笑みを浮かべる。
悪い女だ。
行くわよ、と手招きをする。
彼女はシャッターの前に立つと、右手をシャッターに向けてかざして、
「太陽の導き手より、照らせ。熱っせよ。光の子よ。ここにその御霊よ集まれり。球となりて、敵を撃て。火炎球ファイヤーボール」
詠唱。
次の瞬間――。
彼女の手の平に火の粉のような小さな炎の玉が集まったかと思うと、その二倍――いや、三倍はあろうかという程の巨大な火の塊と化した。
「射出!!」
そう時雨が叫ぶ。
巨大な火の玉が緋色の尾を引きながらシャッターへと発射した。
衝突。
火の玉がシャッターにめり込み、爆発する。
爆音が鳴り響いた。
耳が千切れそうな程だ。
思わず、耳を塞ぎ、目を閉じる。
目を開ける。
僕の目に映ったのは、先程の火の玉程の大きな穴が空いていた。
そこからは一筋の黒い煙が立ち、穴の端は熱で赤くなっていた。
「な、なんだ!?」
武装した兵士の姿が穴から見えた。
「敵だ! 敵がいるぞ!! 例の侵入者だ!! 早く乗り込め!!」
5人くらいるだろうか。
突然の敵の襲来で混乱している。
――手持ちの銃を構える者。
――人型魔装兵器ホムンクルスに乗り込もうとする人。
「そうはさせないわ」
時雨は一切の躊躇無く引き金を引いた。
乾いた連射音と兵士たちの悲鳴のみが、倉庫の中で鳴り響く。
「くそっ。一人逃がしたわ。追いかけるわよ」
「ああ!」
中に入る。
すると、そこには何体もの人型魔装兵器ホムンクルスが配置されていた。
一人が階段に上って人型魔装兵器ホムンクルスの中に入ろうとしていた。
「金石くん、撃って!」
「あ、う、うん!」
照準を合わせる。
これから、僕は人を殺そうとしているのだ。
でも、僕がここで殺さないと、逆に僕達が殺されてしまう。
それに、僕がここで殺されたらキーを助けることが出来ない。
嫌なんだ。
無力なのは。
力が無いのは。
何も出来ずに人が死んでいくのは。
「くそっ!!」
人差し指で引き金を引く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
もう、自分が何をしているのか分からなかった。
理解できないように、しないようにシャットアウトした。
「もういいわ。もういいってば!」
「あ……」
気付いた時には、敵は死んでいた。
思考が纏まとまらない。
白紙の状態だ。
呆然とする僕の手を時雨は引いた。
「こんなことで落ち込んでいてどうするのよ! ここは既に戦場なのよ! 嫌でも人が死ぬわ! 考えている暇なんて無いの! 自分か、味方か、敵かの誰かが死なないと戦争っていうのは終わらないのよ。それが嫌なら引き金を引きなさい! 戦いなさい! 引き金を引く理由を、覚悟を貴方はした。だからこそ、ここに立っているはずよ!」
彼女の怒涛の声が胸に響く。
そうだ。
僕はキーを助ける為にここに来たんだ。
その為なら、どんなことだってしないといけないんだ。
彼女の言う通りだ。
僕には覚悟がある。
だから、ここに立っているんだ。
前へ進むしか道は無い。
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