第43話 ミスターXの試練(中編)
異世界に閉じ込められ
幻術までかけられてしまった
だが、勇樹の調子はいつも通りだった
それどころか
異世界に入れたことをいいことに
周囲への影響を気にせず
自分の限界を知る良い機会だとさえ思っていた
軽く体を動かし状態を確認していく
『申し訳ありません』
『制限解除時の力がこれ程とは計算外でした』
『各部の耐久力が運動性能に追いついておりません』
身体機能のサポートAIの想定を超える
勇樹のたゆまぬ努力が
身体機能を最低限に封印してさえ
想定外の成長を果たしたのだ
とくにムハイに師事してからの成長は目覚ましかった
「そんなことないよ」
「君がいろいろと試行錯誤してくれている」
「だからここまで力を発揮できるんだからね」
「はあっ!」
何の変哲もない
正拳突きを放つ
だからこそ全開状態の凄まじさが分かる
その余波が遥か離れた異世界の境界にまで到達し
それを揺るがす程の影響を及ぼしたのだから
「今までの修行が無駄じゃないと分かったしね」
単純な動作の中でこそ分かる
無駄がそぎ落とされ
過不足の無い力で放つ動作には
身体に余分な負荷を与えない
すさまじい技量が垣間見えた
その後は
何時もの鍛錬であるかのように
基本の型を様々な組み合わせでつなげていく
正拳突きの時とは全く違っていた
凄まじい速度であるにもかかわらず
その動きは一切の揺らぎが無く
僅かな振動さえ起こさない
一通り流れを確認すると
勇樹は一息ついた
「ふぅ!」
「やっぱり能力を全開にすると神経使うね」
『初めてとは思えない完璧な制御です』
大きな力を持つほどその力に振り回されることになる
そうならない為
日々鍛錬を積み重ねて来た
その努力は無駄ではないことが証明された
だが、まだ納得はしていない
「いやぁ まだまだだよ」
「なんといっても 目標は遥か高見に居られるからね」
以前の勇樹ならば今の自分で満足していただろう
だが知ってしまった
世の中に、今の自分では足者にも及ばない力を自由に操る存在がいる事を
だからこそこれからも努力しようと頑張ることが出来る
「大きな力の波が二つ起こったね」
「確認しに行ってみようか?」
勇樹の足取りは、正確に波動の発生源へと向かう
そこには彼の言葉通り二つの人影があった
幻術の効果で、世にも恐ろしい怪物の姿をしている
はずだった
「愛とルナが一つになったんだね」
「強そうだし とても綺麗だ」
「勇樹もお世辞がうまくなったわね」
「でも悪い気はしないわ」
『獣神姫』が頬を赤らめる
「竜と超兵器の力をひとつにしちゃうなんて」
「リーウとナノさんも凄いね」
「おい俺達には容姿に関して褒め言葉はねぇのかよ?」
「そうですよ えこひいきはいけません!」
「ごめんごめん もちろん綺麗だよ」
この二人の力を前にして
呑気に褒め言葉を口に出せる存在は
そうそう居ないだろう
勇樹は二人とは別の方へ視線を送り話しかける
「これが今の僕らの全力だよ」
「分かってもらえたのなら」
「そろそろ出してもらえないかな?」
「まじか!? 俺が見えてるのかよ?」
「絶対に見つからないと思ってたのにな」
「前の奴らの一人にも見つかっちまった」
「まったく自信無くしちまうぜ」
どうやら被害者は勇樹たちではないらしい
ちなみに前回は同士討ちがあった
5人が嬉々として暴れまくり異世界が崩壊しかけ
冷や汗をかかされた
その手前で静観していた一人が首に手刀を放ち
全員を無力化してくれたおかげで事なきを得た
しかし今回も見破られるとは嬉しい誤算だ
「それに幻術も効いてないみたいじゃねぇか」
「一体どうなってんだ?」
「幻術の効果は感じるよ」
「だから、眼だけで見てたら幻惑されていたかもしれないね」
「でも僕たちはいろんな力で感じているから」
勇樹たちは対象を視覚だけで捉えていない
それぞれが発する
個人特有の魔力の波長
同時に香りや気配
熱や気の流れも感じ取っている
「私たちがワタルを見誤るなんて絶対にありえないわ」
強大ではあるが
自分たちに害を及ぼす不安を一切感じさせない
むしろ温もりを感じる力
敵意を感じる方が難しい
そのような力を持つ者は
この世界に二人といない
「そう言ったもの全て惑わせる幻術なんだがなぁ」
「いろんな世界で力を持つ者を試してきたが」
「俺の技を見破られたのは今回で2回目だ」
勇樹の視線の先に
突如として一人の男が姿を現した
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