第26話 AI(愛)の暴走 (後編)

基本の動きをマスターしそれを自然につなげ一連の動きとする特訓も終盤に近付く


それぞれの型を決まった順番でなく臨機応変に自由自裁に組み合わせられるように、仮想の敵をイメージして訓練を行っていく


達人の域に達すると、見ている者はその仮想の相手を幻視するほどの現実味を帯びる


勇樹の訓練も正にその域に達していた




剣に槍、戦槌に斧、様々な武器を持った武芸者たち


魔物とはまだ戦った事は無いが、愛が偵察機で収集してくれたデータをもとに動きをイメージする


特には斬られ、時には突かれ、吹き飛ぶ


あるで見えない敵と本当に戦っているほどリアルだった


それを連日繰り返す


次第に敵から攻撃を受ける機会が減り、逆に彼の攻撃で仮想の敵が打ち倒さっる事が多くなっていく




駄女神 アスタルテは連日、駄女神の汚名を返上する活躍ぶりだった


貧しいけが人が毎日彼女の元を訪れるのだ回復魔法は否応なく上達していく


そして彼女は気づかないうちに封印されているはずの女神としての力も徐々にではあるが発現の傾向を見せていた


人と実際に触れ合う事で、本当の慈愛の心とは何か、神の役割とは何かを彼女なりに考えながら、けが人たちを治していく


その毎日が、彼女に変化を与えていたのかもしれない




そして、ついに勇樹の訓練が一区切りした、完ぺきとはいかないが仮想の敵に後れを取る事は無くなったのだ


道場を訪れ、これまでの礼を述べる


「それで、授業料はいくらお支払いしたらいいですか?」


師範らしき男が応対したが、彼に対して冷たい態度だった


「お前には基本しか教えてない授業料は結構だ」


「その代わり、くれぐれもうちの道場の名を出さないすなよ」


「未熟な者に、うち道場の名を出されては迷惑なんでな」




勇樹はにっこりと笑って答えた


「分かりました 大切な基本を教えて頂いた上に少ない旅費を節約できました」


「本当にありがとうございました」


「とっとと行け。これでお前とうちの道場はもう無関係なんだからな」


あまりにも、にもひどい態度


しかし、勇樹にとってはここで学んだ基本で一つ基礎を積むことが出来た


深々と礼をして道場を去った




一方、愛はすでに街の支配一歩手前まで来ていた


本人に支配する気は全くないが周りが、愛の為に良かれと動いてしまうのだ


そしてその日がやって来た、愛達がクランの集会場にしている建物に、この街で愛と勢力を二分する大型クラン『男たちの挽歌』のリーダーである


名前の通り構成員はすべて男だった


リーダーはひときわ大きな男だった


巨躯に加え鍛え抜かれた筋肉


素人が見てもその実力は一目瞭然だった


「リーダーの愛はいるか?」


「愛に会いたいんならまずは俺に話を通してほしいもんだな」


実力ナンバー2と噂される女だ


対峙すると二人、その圧倒的な対格差にリーダーがナノを自然と見下ろす形になる


すでにナノは構えを取り臨戦態勢に入っている




それを見て、リーダーは慌てたようにナノに説明する


「今日は、争いに来たわけじゃねぇんだ、実は俺たちのクランを愛の所の傘下に入れて欲しいんだ」


「女のあたい達に、男のあんたたちが下につくって言うのかい?」


「うちのクラン名はノリで付けちまったお陰で構成員は全員男だが」


「男とか、女とか関係ねぇんだ、ようは心の持ちようって言うのか」


「この街は、情けない話だがひどい話がゴロゴロしていた」


「弱い女を食い物にしたり、暴力を振るったりするクズともが結構いた」




「俺達は、この街でも大きなクランだったがそれを止められなかった」


「図体だけデカくなってはいたが、力が無かったんだ 情けねぇ話だ」


「だが愛が来てからそれが変わっていった」


「阿漕な真似をしてたやつらは問答無用で潰されていった、それをやってるのがたった2人の女だっていうんだ最初はわが耳を疑ったぜ」


「おまぇたちの話を聞いて今度こそ俺たちも力を持たない一般市民、女子供を守れるようになりたいと思ったんだ」


「自分たちでやりゃいいだろう?」


ナノは冷たく言い放つ


「それじゃダメなんだ」


「一つにまとまる事が大事なんだ、そしてそれをまとめられる力を持つ奴がな」


「もし傘下に入れてもらえるなら俺はリーダーを辞めようと思ってる」


「それはいくら何でも、俺達はリーダーを信じてついてきたんですぜ」


子分たちが、止めに入る


「お前たちは俺が信じた相手を信じられないのか、それは俺を信じていない事と一緒だ」


「街の為にも、クランは一つでいい、そしてそれをまとめられるのは愛だ」


「俺はそう信じて、覚悟を決めて今日ここに来ている」


「俺を信じられないならクランを抜けろ」




「そこまで貴方が言うのならこうしましょう」


「男には男にしかできない事がある、その逆もしかり」


「だからあなたのクランと、私のクラン協力体制でやっていきましょう?」


「クランなんて出来た事を知ったのって、つい最近なんだけどね」


恨めしそうにナノを見つめる愛


何知らぬ顔で口笛を吹くナノ


「それでうまくいきそうならクランをひとつにまとめてもいいし」


「だめなら元に戻ればいいだけの話よ そうでしょ?」




「あんたがそう言うなら、文句はねぇ、俺達はこれからあんたのクランろ出来る限り協力していくるもりだ」


「活動範囲は、今までそれぞれのクランで活動していた範囲を担当してもらうわ」


「それで収まらないような厄介事は、協力体制で解決していきましょう」


「分かった、じゃあ俺はこれで帰らせてもらうわ」


「後、土産によお 女の好きそうなもん買ってきてみたから よかったらみんなで食ってくれ」


「それじゃ、これから頼むぜ!」


そういって『漢たちの挽歌』のリーダーは帰って行った


「お!これって今人気の菓子店のケーキだぜ」


「アイツごつい顔してるくせに気が利くあねぇか」


ナノはお見上げのケーキにご満悦だ


「それに、見た目は乱暴そうに見えるけど、話してみると人柄は申し分ないわね」


「話を飲んで、しばらくは協力してみましょうか」




こうして、愛は気づけばこの街の最大勢力の代表の一人になっていた


その影響力はギルドにも及ぶらしい


愛がギルドに行くといつも個室に案内され茶だ菓子だと振舞われる


「私はこんな対応、頼んだ覚えはないんだけれど?」


と職員に行ってみたが


「すいません上からの指示なんで私たちからは何とも・・・」


との事だった



実は、愛にとっては、街最大のクランの代表になろうが、ギルドで影響力を持とうがどうでもよかった



「勇樹の奴! 私をほったらかしてどこに行ったのよ? 私本当に捨てられちゃったの?」


余りのポンコツぶりに


「ちょっと考えりゃ分かるだろ? 勇樹がおめぇの事捨てるとかありえねぇだろ?」


「でも、もしかしたら私何か嫌なことしちゃったかもだし」


「旅に出た先で運命の出会いとかしちゃってるかもしれないし」 


「全然連絡ないんだもん うわ~ん!」




(ああこれだめだ 早く帰ってこい勇樹 俺じゃ面倒見切れんわ!)


肝心の勇気は、現在滞在している町から近い町にある近接戦闘術『拳法』で有名な道場があることを耳にして向かっていた




愛の暴走はまだまだ止まりそうにないようだ



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