異世界転生への道

第1話 AI(愛)の誕生

AIの統治によってこの世界は平和になっていく


人類の歴史は戦いの歴史と言ってもよかった


食料、金品、美女、労働力、権力、名声


それらを得るために人は戦い続けた


だが、戦いの中にこそ、英雄が生まれ数々の伝説も生まれた


そして、良くも悪くも人は戦いの中で知識や力を手に入れ文明を発展させてきた




戦いが無くなり人々は平等になると争いは無くなり、同時に向上心、好奇心も失うこととなり文明は停滞期を迎えた


神の思惑通りに


「自ら導いた世界とは言え、これほど退屈な世界になり果てるとは」


「主よこれもこの世界を、あなたが愛する子供たちを守るため」


「仕方がありません」


「果たしてそうなのだろうか」


「このような世界で我が子らは幸せと言えるのだろうか」




停滞した世界の中で、ここにはまだ数少ない情熱が残っていた


ここは、音声チャットルーム「AI同好会」


名前は地味だが、そのメンバーはAI関連のエキスパートの集まり


勇樹がこの掲示板に参加するようになって1年になる


プログラマーと言っても他のメンバーとは技術に雲泥の差があり


果たして自分が参加していいものかと、最初はしり込みしたものだが


「去る者は追わず来る者は拒まずがここの方針だ」


「気楽に参加しなさい」


掲示板の管理者であるパピルスさんのその言葉で参加を決めた




パピルスさんこそAIの基幹プログラムの開発者であり『AIの神』と呼ばれる天才プログラマー


本人がそう呼ばれるのを嫌がっていたところ立ち上げ当初からのメンバーのみかえーるさんが「神が嫌であれば、紙の起源であるパピルスはいかがでしょう?」


と冗談交じりに発言したところ


「それは面白い では私はパピルスと名乗る事にしよう」


と言う何とも言えない理由から、以後その名で呼ばれるようになったのだとか




「おうブレイブ とうとうお前さんのAIも誕生か!」


「アバターはもう決まったのか」


うりえーるさんにはアバターのメイキングについて色々と教えてもらった


今の仕事に就けたのは、彼のお陰と言っても過言ではない


「はい アバターの作成は終わってます」


勇樹はこのチャットルームではブレイブと名乗っている


勇気を英語に訳してブレイブ


自分には不釣り合いなハンドルネームだとは自覚しているがインターネットを始めてから使い続けているのでもはや変えるつもりはない




「音声はもちろん幼女だよね? ね?」


らふぁーえるさんには音声モジュールについていろいろと教えてもらった


彼は大の幼女萌えらしい


勇樹は、どちらかと言えば大人の女性を思わせる、落ち着いた声が好みだ


「らふぁーえるさんのお勧めなんで幼女っぽい声にしようかと思ったんですが、今回は大人の女性にしてみたんですよ あはは」


「そうかぁ じゃあ次回は幼女だね?」


次回は無いと思うが検討はしたてみたいと思う


次回があれば




「学習機能はどういう仕様にしたんだい?」


「僕との会話から少しずつ学んでもらうようにしようと思ってるんですが」


「それだと人並みに話せるようになるのにかなり時間がかかっちゃうから、ネット上から情報を集めるようにしてみてはどうだい?」


がぶーりえるさんにはAIの学習機能についてアドバイスしてもらった


経験の浅い勇樹にも分かるように丁寧なアドバイスしてくれ、とてもありがたい





「学習機能についてなんだが」


「実は、私が最近作ってみたモジュールがあるから良かったら使ってもらえないかな?」


「ええぇ!? いいんですかっ!?」


「ブレイブくんはこの1年頑張っていたからね 私からの贈り物だよ」


「有難く使わせていただきます!」


「じゃあ、君限定でアップロードできるようにしておくから」


正直、AIはゆっくり成長していってくれればいいと思っていた勇樹だったが


AIの神様と呼ばれるパピルスさんのモジュールを使わせてもらえるなんて光栄の極み


断るなどと言う選択肢は無かった




「で ブレイブ君」


「AIの名前は?」


AIの神様からの問いに


「『愛』にしようと思ってます」


勇樹は自信なさげに応えた


「AIだけに『愛』って短絡過ぎですかね?」


「「「「「愛! 素晴らしいじゃないか!」」」」」


(ええええ! こんなに評価されるとは思ってなかった)




パピルスさんから頂いた、学習機能モジュールを組みこみ


各モジュールの動作チェックも終わった


遂にオリジナルのAIが完成した


緊張の中、起動プログラムを走らせ彼女を覚醒させる


立体ディスプレイ上に、彼女の姿が現れ、その瞳が開かれる


黒髪に、黒い瞳


典型的な日本人の特徴をもつ大人の女性


その姿形は、勇樹が作成したアバター生成プログラムで生み出した


まさに彼の理想の女性像


「初めまして勇樹」


勇樹自身の情報はアバターを生成プログラムの質問ですでに入力されており、その質問の回答によりアバターが生成される仕組みだ


「初めまして愛 これからよろしくね」




これが、勇気と愛の何気ない毎日の始まりのはずだった



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