忍賢者の2世界生活 〜ダンジョン探索と森の開拓で大忙し〜

天神 運徳

第1話 裏切りのマッケンジー

 地球より高度に科学が発展した世界メタリカに、空想の産物であったダンジョンとモンスターが現れてから100年。

 人々は初めてダンジョンとモンスターが現れた困難を忘れ、仮染の平穏を満喫していた。


 この100年の調べでダンジョンは地下にのみ発生して、21層を超えたら入り口が開く。

 1層では出てくるモンスターのレベルは1。

 100層ではレベル100と、階層とモンスターのレベルが連動している。

 この50年の調査で最下層は100層が限界とされている。


 ダンジョンは深化成長する。

 数ヶ月から数十年で1層増やして深くなる。

 深くなり25層毎に上層、中層、下層、深層と呼ばれ。10層毎と25層毎。それに最下層に現れるボスが強くなっていく。

 それに合わせて25層を区切りに下級、中級、上級、深級と呼び分けされている。


 ダンジョンには出るモンスターの傾向があり。

 ゴブリンのみや人型のみ、虫系、何でもあり等様々。

 モンスターを倒すと消滅して確定で魔石を落とす。

 それに時々アイテムや武装、素材を落とす。

 なので戦いやすいダンジョンは残され。そうでないダンジョンは早々に、最下層のコアを破壊される。

 コアを破壊されたダンジョンは死に、緩やかに崩壊していく。

 100年残るダンジョンには戦いやすいモンスターや、モンスターの弱点が統一されたダンジョン等が残っている。




 統一国家メタリカ 辺境都市ヴェルズリーフ 深級ダンジョン入り口裏手


 ダンジョンに挑む者…探索者の忍野賢治は休日に、同じパーティーのメンバーであるマッケンジーに呼び出され。完全装備で深級ダンジョンまで来ていた。

 金髪碧眼、長身痩躯。短く刈った髪を掻き上げ笑顔を振り撒けば、道行く女はアイツの虜。

 深級探索者でも花形のアタッカーを務め、なかなかレアな双剣士。

 背中の双剣から体を覆う軽鎧まで全てか、最高金属と呼ばれるオリハルコンで統一され。

 魔法鞄に入っているアイテム類も準最高級以上の物しか持っていないと言われている。

 外見よしで収入よし。おまけに性格もよくて、夜も凄いと噂の男。

 それが忍野賢治を呼び出した人物、双剣のマッケンジーだ。


 逆に賢治の外見は黒髪黒目で、体は細いが身長は平凡的な170センチ。

 同じパーティーなので収入はマッケンジーと同額だが、職業は斥候戦士と地味。

 装備は硬さよりも身軽さを重視して、上級探索者なら大抵持っているミスリルの軽鎧。

 武器こそオリハルコンの刀だが滅多に使わず、弓や相手に合わせた細々した道具を使って戦っている。

 探索者歴が長い者ほど賢治の評価は高いが、広告に使われるのはいつも、マッケンジーと他の女性メンバー2名だ。



 パーティーの光と陰とも言える2人だが、仲は悪くない。

 互いに死線を潜り抜けた仲間なのだから当然だし、賢治に至ってはマッケンジーを親友だと思っている。


「おー。ケンジ、来たか。本題に入る前に聞きたいが、俺達の実力なら2人でも深級100層のボスを倒せるとは思わないか?」


 斥候戦士の賢治と双剣士のマッケンジーではパーティーバランスが悪く。

 いくら2人が深級探索者とは言え、進めたとしても40層のボスまでだろう。

 なのに他のメンバーの女性2人は居ない。

 まだ待ち合わせの時間には早いとはいえ、いつもなら全員が集まっている時間なのだが…


「倒すだけなら可能だろうけど、そこに行くまでに死んでしまうと思うが?」

 当然マッケンジーも同意見なのだが、彼には秘策があった。

「これは1度しか使えないが、ダンジョン最下層のボス部屋まで転移可能なアイテムなんだ」

 取り出したのはひとつの腕輪。

 材質はオリハルコンだろうか。虹色に薄く光を反射して、内包する魔力も相当な物だ。


「そんな伝説級のアイテムをどこで…」

「んー、まあ…ちょっと、な?」

 賢治の問をはぐらかし、マッケンジーは言葉を続ける。

「それよりかなり金に余裕がなくてな。今回の探索にダリアとリンダは呼んでないんだ。あてにしてるのはコイツとお前なんだ」

 コイツと言い腕輪を持ち上げてみせるマッケンジー。


 金の貸し借りで散り散りなったパーティーも何度も見ているので、リーダーのダリアの命令でパーティー内での金の貸し借りな出来ない。

 それ以外で自分に何が出来るかと考えたら…親友の提案に乗るしか思い浮かばなかった。

「わかったよ。そのかわり、貸し1な」

「へへっ、サンキュー。俺が腕輪を着けると剣を持つバランスが変わっちまうから。コイツはケンジが着けて発動してくれ」


 分かったと腕輪を受け取って左手首に装着する。

 腕を魔力通すと自動で手首にフィットする腕輪を確認して。

「もう発動していいのか?」

「ああ、準備は出来てる」

 賢治の背後にマッケンジーが回り、肩に手を置く。


「起」

 賢治が腕輪の使うために、起動と言いかけた瞬間。

 マッケンジーは肩から手を離し、全力で後方に跳んだ。

 一瞬の出来事に賢治は判断が追いつかず、続きの言葉を発してしまう。

「動」

 その瞬間賢治は消え去り、マッケンジーだけが残った。


「ハハハハハッ!高い腕輪と人払いの結界石で財産の半分以上が消えたが。それ以上にお前が消えてくれて嬉しいよ賢治!これでダリアもリンダも、俺の物だーーー!!」

 賢治を呼び出したダンジョン入り口の裏手には、マッケンジーの嘲笑と歓喜の声がいつまでも続いていた。

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