君に決めた!
「何をやっているんですか!シュンスケ君は!本当に節操知らずのインモラリストですね!」
次の場面に切り替わるや否や、いきなり保健室にいて、イルシーから罵倒された。これもイベントなのか?でも、攻略ヒロインから罵倒されるイベントって……。
「これじゃあ、ギャルゲーというよりもエロゲーだな」
「まぁ!やっぱり、そんなつもりだったんですね!エロスな展開を期待して、ハーレムルートまっしぐらのつもりだったんですね!」
「違う!って言うか、なんでいきなりお前に罵倒されないといけないんだ!」
「罵倒もしたくなりますよ!先生のことは無視しておいて、いろんな女の子と仲良くなろうとしているでしょう?」
「仲良くなろうも何も、向こうから出現してくるんだ!仕方ないだろう!」
「あ~あ、本当にシュンスケ君は優柔不断ですね。あれですか?ラノベやアニメのハーレムものばりに無意味にもてまくって、うはうはしたいんですか?」
「そんなわけあるか!ここはゲームの世界なんだろう?ギャルゲーの主人公が無意味にもてないと、ゲームが始まらないぞ!」
「はぁ~あ。何なんでしょうね?ここはゲームと現実の世界が融合した世界なんですよ。もう、わざとやっているとしか思えませんね」
「何がだよ?」
「ま、いいです。それよりも、本当に何をやっているんですか?誰を攻略するか真剣に考えないと、あっという間に卒業式ですよ」
イルシーの言いたいことは分かっている。ここら辺りで本当に攻略するヒロインを一人に絞って行動に移し、好感度をマックスにしてフラグイベントをクリアしていかないと、告白イベントのある卒業式まで間に合わないのだ。
「そんなことお前に言われるまでもない!」
「そうですか。なら、誰にするんです?」
「そ、それは……」
悩む。大いに悩む。まだ決めきらない。イルシーの言うとおり、本当に優柔不断だ、僕は。
「もう悩んでいるなら、先生にしておきなさい。折角ですから、エロゲー展開にしても構いませんから」
「それだけない」
こればかりは優柔不断じゃないぞ。ま、エロゲー展開は気にならんでもないが、今から教師ルートは本当に辛いだけだ。
「ぶー!じゃあ、誰なんです?」
「お前に言う必要はないだろう!」
「私、気になります!ナツコさんですか?もともとシュンスケ君、好きでしたもんね、彼女のこと。しかも、おっぱい大きいし……」
「うわぁぁぁぁ!何でそれを知っているんだ?しかも、おっぱいは関係ないだろう!」
「それともミオちゃん?幼馴染だから遠慮なく積極的だよね。一番攻略しやすいんじゃない?」
「ないない」
「う~ん。アキホちゃんも捨てがいたでしょう?妹はいえ義理ですから。義妹、なんてインモラルな響きなんでしょう。おっぱいも大きいし。本当にスケベ大将軍ですね、シュンスケ君は」
「だから、どうして胸の話が出てくるんだ!それに秋穂は義理とはいえ、妹なんだぞ!」
「サエちゃんもシュンスケ君のこと、慕ってくれていますからね。攻略しやすいですぞ」
「うっ……、それはちょっと考えてしまった……」
「サトルちゃんなんてどう?意外に好感度高かったでしょう?」
「この流れでさらっと悟さんの名前を出すな!それだけは絶対ない!」
「あとはアキコちゃんにカノンちゃんか……。どうせなら、大好きなアキコちゃんに狙いを定めてみたら?」
「で、でも……。ゲームの中とはいえ、千草さんに畏れ多い……」
「畏れ多いって……。アキコちゃんも生身の女の子なんですからね。じゃあ、もうカノンちゃんでいいでしょう」
「いいでしょうって……」
カノンか。そういえば、あいつのことは考えていなかったな。しかし、ありかもしれない。
千草さんをはじめ、夏姉や秋穂、美緒、紗枝ちゃんは、実在している。そんな彼女達を恋愛シミュレーションゲームのヒロインとして攻略することに、どうしても抵抗を感じてしまう。しかし、カノンは僕の世界に実体化しているといえ、僕が作り出した妄想の産物が変化した姿だ。それに付き合い自体も一番浅い。それほど抵抗を感じることはないのではないだろうか。
「カノンか……」
「おっ、どうやら定まってきたみたいですね。でも、カノンちゃんとなるとのんびりしていられませんよ。今のところ一番好感度が低いんですから」
確かにカノンの好感度は低い。五つのハートのうち、半分しかピンク色ではない。今から必死になって挽回していかないと。
「よ、よし!やるぞ!」
「その意気です。シュンスケ君!」
僕はイルシーの声援を受け、保健室を出た。
保健室を出たと思ったら、シーンは放課後に切り替わっていた。教室には千草さん、カノン、そしてクラス違いのはずの美緒の姿があった。どうやら個人のイベント発生はないらしい。ここは誰かを選択して好感度をあげるシーンだ。
「よぉ、カノン」
僕は初志貫徹、カノンに声をかけた。
「何?」
カノンの声は不機嫌そのものだったが、ハートが半分ピンクになるのを僕は見逃さなかった。好感度が低いうちは、声をかけただけで好感度があがるんだよな。
「一緒に帰ろうぜ」
「う、うん」
戸惑いながらも了承するカノン。また半分、ハートがピンクになった。これでピンク色になったハートは一つ半。順調じゃないか。
学校を出た僕とカノンは、夕日がさす坂道を下っていく。その先に見えてきたのが漆原商店だ。
「ねぇ、何か飲んでいきましょうよ」
と言うカノン。カノンにしては珍しいことを言うなと思っていると、はたと閃いた。ここで好感度を左右するイベント発生だ。これからの僕の行動でカノンの好感度が大きく変化するはずだ。
まずは同意、不同意の選択。ここは迷うことなく同意。相手が誘っているんだから、断れるわけないじゃないか。
「そうだな。喉乾いたし、何か飲んでいくか」
「うん!」
カノンが嬉しそうに頷いた。好感度こそあがらなかったが、選択肢としては間違いなかったようだ。
僕達は連れだって漆原商店の中に入った。コンビニ全盛期の昨今、学生相手にしぶとく商売している個人商店らしく、ドリンクからお菓子、文房具まで幅広い商品が所狭しと陳列されている。
「何を飲もうかしら……」
カノンがドリンクの陳列棚の前で逡巡していた。はっ!これは、カノン好みのドリンクを選べば好感度があがるというイベントか?僕はカノンの背後に近づき、陳列棚を覗き込む。見た感じ中高生が好みそうなドリンク類はざっと揃っている。基本的に何でも美味い美味いと飯を食べるカノンことだから好きなドリンクのストライクゾーンも広いと思うのだが……。
「カノン。これがいいんじゃないか?」
僕が選んだのは、オレンジ味の炭酸飲料だ。ジュースと呼ばれるカテゴリーの中でも定番の飲料。炭酸嫌いではない限り、これを嫌う奴はいないだろう。
「え……。それって、なんだか子供っぽい」
あ、あれ?あまりよろしくな反応。カノン、こういうの嫌いなのか?しかも子供っぽいって、飲み物の好き嫌いに使う理由か?
どうにも釈然としなかったが、この理不尽さもギャルゲーの醍醐味。好感度が下がらなかっただけでもよしとするか……。
「私、これにする」
カノンが選んだのは、ミルクコーヒーだった。それも充分子供っぽくないのかと思ったが、黙っておくことにした。下手なことを言って好感度を下げてしまうわけにはいかない。僕は、やはり釈然としないまま、お会計を済ませた。
しかし、この調子だと先が思いやられる。カノンの好きそうなもの、喜びそうなことがどうにも分かりづらい。要するにカノンの好感度をあげる壺が分からないのだ。
『けど、今さら他にターゲットを絞るわけにはいかないか……』
美味しそうにミルクコーヒーを飲むカノンを見て、これもこの世界を抜け出すためだと自分に言い聞かせた。
現在の好感度
イルシー:3.5
夏子:3.5
悟:3
美緒:2.5
秋穂:2.5
顕子:2
紗枝:2
カノン:1.5
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