色は匂へど

第161話「淫魔姉弟」

「Hey! チョット乗っていきマセンかー?」

 ひかりは一瞬困惑した。すらりとした女性がリムジンに手をかけ、ウインクをしてみせたのだ。辺りにはひかり達以外に目立った人の姿もない。ということはやはり、こちらに声をかけているのか。

「えと……」

「ワタシのシスター、リリィデスよ。そういえばひかりサンと会うのは初めてデシタね」

「あ、ハルが天明都に行っている間にお話ししてくれた」

 おずおずと近づいて挨拶をすると抱きしめられ、頭を撫でられ、キスの雨を降らされた。身体が強ばるがリリィは気にしていない様子だ。

「シスター、仕事は?」

「影武者がひたすらハンコついてマース。主戦力がいなくなったと聞いたノデ、リリィが助太刀しに来マシタ!」

「お前、戦えるの?」

Of course!もちろん リリィには下僕タチがいるからネ」

「ひゃッ!?」

 リムジンの陰からぬるりと姿を現した屈強な男達に怯えたひかりを、翠が手を取って慰める。それをリリィが紳士的だと褒めながら、リムジンに乗り込んだ。三人もそれに続く。

「行き先は玉藻前のいる渓谷デシタね。Let's go!」

「なんで知ってるんですか?」

「ジャスには常に何人か下僕タチをつけてマース。視力も聴力もバッチリの下僕をネ」

「もしかしてブラコン……」

「大切なファミリーに何かあったら、リリィ死んじゃいマース。フフフ、言動には気をつけないとダメデスよ?」

「あまり脅かすのはやめてクダサイ、別に何もされてマセンから」

 ジャスはもう慣れたものらしい。リリィは不満げに頬を膨らませる。

「幹部の中に対応できるのがジャスしかいないカラ、涙を我慢して送り出したのデスよ! ホントはこんな他の国のゴタゴタに愛しいファミリーを送りたくなんてないのデース」

「この国がなくなったら、財閥解体もありえマス」

「仕方ないデース……」

「ご兄弟で仲がいいんですね」

 二人は一瞬、ひかりの目を見つめた。リリィが薄く笑う。

「リリィ達、祖国では絶滅寸前の種族なんデース。マムとダッドは亡くなって、もうファミリーはジャスだけだからネ」

「あ……ごめんなさい」

「気にしてないデース! でもジャスのことわざと傷つけたら、リリィがアナタ達の頭……Bang!」

 手で作った銃を頭に突きつける仕草をし、引き金を引く。青ざめたひかりと翠ににっこりと笑いかけた。怪談を聞いた後のような寒気に身震いすると、ジャスが二人へ傍らにあった毛布をかけてくれる。

「ね、ジャス。今までいろいろ言ってごめん」

「かわいいものデスよ」

「えと……ごめんなさい」

「ひかりサンは何もしてないでショウ? フフ」

 ジャスが愉快そうにしているのを、リリィが穏やかな顔で眺めている。ひかりはわずかに気まずくなってうつむいた。

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