沈黙の国

梦現慧琉

一頁目

 昔だったり、未来だったり。

 近かったり、遠くだったり。

 いつともどことも知れない、時間と座標に。

 沈黙の国が在りました。

 そこの人達は、喋ることを知りませんでした。

 

 彼らは言葉を口にする必要はありませんでした。

 口にしなくても、伝わったからです。

 音が無くても、声が無くても、

 彼らの心と心は繋がっていました。

 頭の中で、胸の中で、会話ができたのです。

 

 別に、考えていることが全て筒抜け、というわけではありませんでした。

 伝えたいことは選べます。心を閉じれば覗かれません。

 慣れてしまえば、少しくらい、嘘だって伝えられます。

 ただ、彼らは言葉を口にしないだけで、

 私達と変わらず、意志疎通していました。

 

 それでも、心が伝わるのですから。

 誤解もなくて。

 一度に色々伝えられ。

 景色も音も温もりも共有できて。

 お互いの痛みや悲しみすらも伝わりました。

 

「ねぇ、今日とても綺麗な夕焼けを見たの」

「それは素敵だね。どんな夕焼けだったの?」

「こんなよ」

「わぁ、綺麗! 感動した君の気持も伝わってくるよ」

「私を受け入れてくれる貴方の気持ちも伝わってくるわ」

「世界は素晴らしいよね」

「ええ、幸せに満ちているわ」

 

 言葉にならない心が、正しく迅速に共有されて。

 独りになることなんてなくて。

 彼らは、おおかた幸福でした。

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