第12話 元奴隷であるアシュラの親代わりになりたい(6)

 湯船に浸かる。

 背中合わせに座っていて、お互いが無言になる。

 昔入った時は、なんとも思わなかった。

 普通に話して普通に盛り上がっていた気がする。

 だけど、最近入っていなかったから、何故か緊張する。


 タオルを身体に巻いて、背中を向けているせいもあるかも知れない。

 アシュラが普通に真正面にいたら、何の緊張もしなかったし、意識することもなかっただろう。


「お風呂っていいですよね」

「……えっ、ああ」

「ニホンではお風呂って一般的なんですよね?」

「うん、まあ、そうだね」


 気を遣って自ら話を振ってくれている。

 アシュラは子どもなのに。


「やっぱりお風呂は命の洗濯って感じかな。毎日風呂に入るのが普通なのに、異世界じゃお風呂自体少なかったもんな」

「桶にお湯をためてそれを使うのが普通ですよ。まさかこんな広い所を毎日使うなんて贅沢にもほどがありません?」

「毎日風呂に入らない異世界の人達の方が俺にとっては特殊だけどなあ」


 日本は湿気があるせいで、毎日風呂に入らないと汗がべた付いてしかたがない。

 体臭だって臭くなる。

 だから風呂に入るのが普通なのだが、異世界だとそうでもない。


 日本と比較して乾燥していることもあって、毎日風呂に入る習慣というものがない。

 だから、湯船に浸かるということ自体ほとんどなく、桶を使うなり、湿った布を使って拭くなりで事足りるらしい。

 だが、風呂に入らせてみたら、思いの外好評だった。


「あと、肩こりの概念がないのもすごいなあ」


 マッサージチェアなどはないから、人力でマッサージしてあげようか? と旅の仲間に冗談で言ったことがある。

 そうしたら、肩こりって何? って質問されて驚いた記憶がある。

 異世界には肩こりという概念がないのを、そこで知った。


「旅をしている間、一時期肩こりで大変でしたね」

「ああ、確かに……」


 肩こりという概念を、みんなに教えたことを俺は後悔した。


 お風呂!

 それからお風呂上りのマッサージ!


 それを安易に話してしまったせいで、パーティー内で大流行したのだ。

 考えれば分かり切ったことだ。

 ただでさえ毎日モンスターとの戦闘で疲弊しきっている。

 肩が凝っていて当たり前だ。


 それに、生まれてきてから一度もマッサージを受けたことがないのが異世界人だ。

 一度でも味わってしまったら、もう元に戻れない。

 毎日マッサージをして欲しいって言うに決まっている。

 そして、そのせいで被害を被ったのが俺だ。


 俺はみんなのマッサージ係になった。

 みんなマッサージの経験がないせいで、下手くそだったのだ。

 俺は毎日家族にマッサージを強要されたせいで、身体の各部のツボを熟知していた。


 そのせいで、ほんとに酷い目に合った。

 毎日毎日せがまれた。

 マッサージ、マッサージ、マッサージ。

 とにかくマッサージ。

 ブラック企業並みに、来る日も来る日もマッサージをしまくった。


「あの時は本当に大変そうでしたね。エルフさんの胸を見ながらのマッサージ楽しそうでしたね」

「いやいや、見てないって! 見てないから!」


 アシュラの声色が怖い。

 怒っていらっしゃるようだけど、何もやましいことはしていない! はずだ!


 お風呂上り。

 女性陣はみんな艶っぽくて綺麗だった。

 そんな彼女達が確かに冒険の疲れもあっただろうが、大きな胸をしている人もいて、その胸のせいで肩が凝っている人だっていたのだ。


 だから肩こりの元凶を凝視していたかも知れない。

 でも、それはみんなのことを心配してのことだったのだ。


 胸の膨らみがどれぐらいあるかが、思う存分確認できた。

 たまに突起物がチラ見できた時だってあった。

 うなじがどちゃくそエロかった。

 肩じゃだけじゃなく、背中もやって欲しいと言われてやって、ついでに胸に手が当たってしまったことだってあったかも知れない。


 でも、それは、仕方がないことだったんだ。


「そうですかねー。私にはユウシがウキウキしているようにしか見えませんでしたけどね」

「うっ……」


 全然信じてくれない。

 確かに役得だったけれど、毎日一人でマッサージで結構キツかったんだけどなあ。


「大きい胸の方がいいんですか?」

「は?」


 いきなり何の話?


「いっ、いいから答えてください! 胸はやっぱり大きい方がいいんですか!?」

「そ、それは……小さいのもいいかな?」


 大きい小さい。

 どちらの方がいいかと聞かれると、それは大きい方がいいかなと言える。

 でも、だからといって大きいのが絶対正義というわけでもない。

 風船みたいに大きいと、ぶっちゃけ引いてしまうことだってある。


「で、ですよねー。小さい方がいいですよねー」

「あー、うーん」

 

 小さい方がいいとは言っていない。

 小さいのもいいかな? と言っただけだ。

 もしかして、自分の胸が小さいことを気にしていたのかな?


「じゃ、じゃあ、揉んでみます?」

「えっ!? 胸を!?」

「違います! 肩をです!! 久しぶりにマッサージを受けてみたくなったんですよ!! 駄目なんですか!?」

「あっ、そうだよねー。いいよ、たまにはね」


 怒られたけど、今の流れじゃ絶対に胸揉んでいいって思うよね?

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