夜明け

 一ヶ月前、世界は闇に包まれた。町にはゾンビで溢れかえり、皆でつぶしあい、日の光を浴び、死んでいった。生き残りは私たちだけ。友達のミオと顔を見合わせる。

 二人で夜の学校に閉じこもり、食糧と一夜を明かす。

 食糧の備蓄はあるけれど、この生活もいつまで続くことか。終わりが見えない。未来もない。私たちは閉塞感にも似た絶望の中で日々を生きていた。

 その折、不意にミオは口を開く。

「出よう」

 ここにいたって仕方がない。今の停滞に身を置いてはいられない。変えなければならないと。

 けれども私は首を横に振った。

「嫌だよ」

 頑なな拒絶。

「外が安全だなんて思えない。ここよりも、もっとひどい地獄があるに決まってる」

「でも、行かなくちゃいけないんだよ」

 彼女の決意は頑なだった。

「確かに危ないかもしれない。なにも変えられないかもしれない。だけど、ここにいたってどうしようもないんだよ。私たちに未来はないんだよ。それならさ」

 ミオは言う。

 それを聞いて私の心も変わった。

 一人ではなにもできない。未来を変えられない。だけど、二人でなら。

「分かったわ。一緒に行こう」

 立ち上がる。

 窓の外から光が差し込む。

 夜が明け始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る