止まない雨はないなんて嘘だ。

 確かに雨は止む。だけどまた降り注ぐんだよ。


 一昨年のあの日も、同じことを思っていた。


 強運なのかなんなのか、災害には強すぎる私である。

 台風は避けて通り、大地震の経験はなし。

 豪雨に至っては経験しても人的被害がゼロ。おかげで、被害の中心みたいなものなのに被災していないという、わけの分からない事になっている。


 今までにないもの、大丈夫だったからといって油断しないでと人は言う。

 だけど違うのだ。

 被害に遭っても無事なのが私であり、それが猜疑心の原因にもなっている。


 避難所が嫌いだった。

 見知らぬ人々。同年代の影は一人もなく、一人ぼっちになったような気分になる。ひどく居心地が悪い。

 できるのなら早く帰りたいし、早く終わってくれないかなと願っていた。

 あの閉塞感。外の景色のように陰鬱としていて、にぎやかで明るいのに、私の心だけが曇っていた。


 なにが普通でなにが危ないんですか。

 槍のように降り注ぐ雨。地面に薄く膜を引いた水面。音を立てる水滴。

 普通じゃないんですか、これくらい。

 これが延々と続く? 梅雨だからそうでしょう?

 ああ、なにが普通で、なにがおかしいのだろう。どれくらいになったら安全と呼べるのだろう。


 いずれ、これが普通になる日がやってくる。

 自然に風情を感じる余裕もなくなる日がやってくる。

 それでも人は絶望の中に希望を見出すことをやめないのだろう。


 だけど、と思う。

 絶望しなくちゃダメですか。

 この運命を享受しちゃ、ダメですか。

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