運動会

 運動音痴女子である私だが、運動会は好きだ。

 二つの組に分かれて戦うシチュエーションは燃えるし、お祭り感が満載で楽しめる。

 だから、今日まで陰でこっそりと走り込みをして、特訓を重ねた。

 全ての努力はこの日のために解き放たれる。


 なお、運動会の前日は雨だった。当日の朝も小雨が降っている。

 私たちは朝から雑巾でグラウンドの水抜きにかかった。


 かくして小学校四年目の運動会は雨の中でのスタートとなる。

 開会式を終えた私は白い帽子をかぶって、応援席に入る。

 天気のせいで一部の種目が後ろへ回った。

 組体操はほとんどのポーズが変わっていたため、別物だった。

 見ている分には楽しめる身としては、もったいないと感じる。


 それから種目は次々と消化されていった。次は私たちの種目八〇メートル走の番だ。


「勢いよく走ったら転ばない?」

「転ぶとロスになるんだよね? なら、手抜くわ。そっちのほうがいいでしょ」

「私も慎重にいく」


 同じレーンを走るメンバーと話し合い、私は平気でウソをつく。

 そして順番が回ってきた。白線の外側で構える。


 バンッと、ピストルの音がした。グラウンドを蹴る。走り出した。

 普段は足の遅い私だけど、その瞬間だけは風になったように体が動く。

 カーブを曲がって、ゴールが見えてきた。後ろは振り向かない。

 なにがどうなっているのかは分からないけれど、とにかく、腕と足だけを動かした。

 新しく買ったくつしたを泥色に濡らしながら、『瞬足』のシューズで地面をとらえる。

 ゴールテープを切った。

 後にも先にも私が一位でゴールを決めたのは、それっきりだった。


 結局、皆は本気で走ったのだろうか。

 律儀に自分の言葉を守った者がいたのかはさておき、今回は心理戦を制した私の勝ちだ。

 同じ種目を走ったメンバーは背中に泥の飛沫を浴びて、服を汚す。

 私も同じことになっていないだろうか。そんなことを気にしつつ、午後の部も順調に消化していく。


 そして、ついに閉会式を迎える。

 運動会の結果は私たち白組の勝利だった。

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