時の流れ

 昔はよかったなんて、そんなことは言うつもりはない。もとより私は長く生きているわけでもなかった。俗に言う若者なのだ。そんな私でも、子ども時代はある。

 子どものころ――保育園児だったり、小学生だったりすることと言おう。そのころは一日一日が長かった。一日中遊んでもまだ、日が暮れない。一週間ですら、長く感じた。いつまで経っても、休みが明けないのだ。まだかな、まだかな。畳の前で正座をして待ち続けたのを覚えている。

 それは決して、よいことばかりではない。

 ハッキリ言って、地獄のような感覚だった。ただひたすらに重苦しい。もどかしくてたまらない。

 二度と戻りたくはない。それが私にとっての、子どものころだった。


 だが、今はどうだろう。良くも悪くも、時の流れは止まらない。勢いよく、過ぎ去っていく。中身なんて、あるものじゃない。一年一年がまるでかつての一週間のよう。

 瞬きをすれば年が明けているような……いや、さすがにそれは言い過ぎか。


 そうした時の流れに置いてけぼりを食らっているのが現状だ。このまま時間だけを重ねすぎればどうなるのか。老いていく。干からびていく。それは嫌だな。だから私は、年を取りたくないと願ってしまう。永遠に時の止まった空間に、身を置いていたい。


 昔は確かに時が積み重なっていたという感覚があった。一年経つごとにようやくかと感じた。とにかく、なにかを達成したという気持ちは湧く。だけど、今はすでに作業。なんともいえない。なにもしていない。ただ、身を任しているだけなのだから。


 今となっては過去と今は切り離されている。

 もはや戻ることはできない。手を伸ばすことすら敵わない。別に、そんな過去の記憶、どうだってよかった。

 だけど、満たされていたのはいつの時代だったか。少なくとも、今ではない。つらいことはなくとも、喜びもない。圧倒的な虚無。

 これではどちらが幸せなのか、分からない。


 それでも進むしかない。

 できるのなら、この時の流れに置いてけぼりをくらわぬように。

 そう気を配るしかない。


 確かにそう、思った。

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