Dolce アイドルが恋しちゃだめですか?
原作:HoneyWorks 著:小野はるか/角川ビーンズ文庫
stage 0
「じゃあ、これからナンバー順にステージに上がってもらうから。ステージ中央まで行ったら自己
暗幕が張られたステージのそで。
ガチガチに
これは人気ボーカル、ハノンが所属するエッグレコードで
「おまえ、ぜんぜん緊張してないのな」
話しかけてきたのは参加者のひとりだ。名札には
「おまえ一番目立ってて注目されてんのに、すげーな」
「まあね」
「よし、俺も見習わないとな!」
そう言って笑う風真を、沙良はなんとも言えない気持ちでながめた。
(人のこと、言えないでしょ……)
なぜなら、
「──いまさらなんだけど君、どうしてそのかっこなの……?」
白雪風真、男。
彼はなぜかウィッグをつけて、スカートをはいていた。
沙良以上に目立って、そしてべつな意味で注目されている。
「そういう
「だろーな」
あっけらかんとした返事にちょっとおどろいた。
「でも、これが俺だから。俺はこの姿でアイドルの夢を
からりとした
「おっと、次俺の番だ。んじゃ行ってくるな!」
風真はスタッフの合図で勢いよくステージへと走って行った。
「はい、じゃあ合格は
全員のアピールタイムが終わり、主催者が合格者の名前をつげる。
それぞれがよろこびの声をあげるなか、沙良はひとり、すっと手をあげた。
「──すみません。辞退します」
合格した四人のほか、審査関係者たちもざわついた。
「っていうわけで、帰ります。ありがとうございました」
「い、いやそれは困るよ塔上くん! 辞退ってどうして? ならなんで受けたの!?」
「必要だったので」
「じゃアイドルになりたいってことだよね?」
沙良はすこし考えてから首をかしげた。
「いいえ?」
「えぇえ!?」
「では、失礼します」
「しつ……ってちょっときみ!」
沙良は一礼して、ぽかんとする参加者たちの前を通る。
「──ねえ、負けたままでいいの?」
よぎるとき、小声で声をかけられた。
なんのことだ? と相手を見る。合格者のひとり、灰賀一騎だった。
一騎は
「ボクがだれに、負けたって?」
カチンときた。
正直、歌にもダンスにも自信があった。
沙良の父は有名ミュージカル俳優、母はもと歌劇団トップ
歌にダンスに演技にと、生まれて間もないころから両親の重い期待のもと、レッスンを受けさせられてきた。
じっさい沙良は五才で子役デビューをはたしているし、すでに持ち歌のCDも発売している。
今回の最終オーディションだって、一番観客を
どの角度のどの笑顔、どんな言葉やしゃべり方が
息をするように演じられる。
負ける要素などだれにも、どこにも────
「えっと、風真に」
一騎はふたりにしかきこえないような小声でそう告げた。
(風真。白雪風真? あのスカートの)
鼻で笑おうとして、結局できなかった。
思い出すのは、ついさっき立ったばかりのステージから見えた、ひとりの女子だ。
沙良の登場に客席がどっと沸くなか、彼女だけがよそ見をしていた。
──いや、出番が終わりステージを去る風真の姿を、けんめいに追っていた。
まばたきすら忘れて見入る、あのキラキラした
とくにこれと言っておしゃれなわけでもなく、美人なわけでもない。
それなのに、
あの目には、風真以外のなにもうつっていなかった。
すでにオーディションは沙良の番になっていたのに。
だれもが沙良の登場に沸くなか、沙良を見ようともしない。
こっちをむけ、とトスした花は、観客たちがけんめいに手をのばすなか、彼女の手によって
──彼女がのばした手は、風真を追ってのものだった。
(なんか、むかつく……)
「審査員長さーん、やっぱり辞退しないそうです!」
一騎がやったね! といわんばかりの笑顔で審査関係者に手をふる。
「は? そんなことだれも……」
「じゃあ、これからみんな仲間だ!
手を差しだしてきた相手を見る。……白雪風真だ。
(ボクが負けた? これに?)
どこが? と考えているうちに、合格者たちで組んだ
「ちょ、ちょっと、ボクは」
「よーし気合い入れようぜ!」
風真ががっちりと沙良と
その反対側をガッチリ体型の豆井戸亘利翔が
「うっしゃあ合格はゴールじゃねー! こっからがスタートだぜぇ!」
「は、はいっ」
「がんばるぞーっ! エイ、エイ、オ──っ!」
一騎のかけ声に、みんなが「エイエイオー!」と声をあげる。
「だ、だれもきいてない……」
たぶん、きく気もない。
そして
二〇××年 四月。
エッグレコード付属会社所属新アイドルグループは、こうして五人でスタートを切ることとなった。
デザートのようなワクワク感をあたえ、甘くやわらかな歌声でみんなをつつむグループになるようにと、観客投票によってグループ名を『
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