三人組ロボットくんと二人組ユキちゃん
4月12日 水曜日
昨日は結局、日付が越えるまで晴馬たちとゲームをしていた。
今は昼休み。
昼食を食べるために、いつも利用している場所に向かっていた。
4階から行ける秘密の穴場を目指し、晴馬とタクの3人で廊下を歩いていた。
僕は眠い目を擦り、前を歩く2人の会話を何気なく流していた。
「今日はー、次のー、ロングーホームルームでー、終わりー」
「タク、なんか機嫌いいな」
「わかる晴馬? さっきさー、授業抜け出して工房で作業してたら、おっちゃんからアンパンもらったんだよねー。ラッキーしょっ!」
「タクはアンパンに目がないもんな」
タクはいつも通り、工房に行ってモノ作りをしていたらしい。
この高校は進学校の割に施設が充実している。それをいいことに、タクは高校にいる時間の大半を工房で過ごしているらしい。
「そういう晴馬は、さっき見たぞー! あれっ1年生? 告白されてたよなー?」
「そうだけよ。でも一目惚れって言われても正直困るんだよな。別に俺は彼女が欲しい訳じゃないし」
「一目惚れを運命とかいう人間がいるが、一目惚れは単に性的な魅力を感じる相手に起きる現象に過ぎないからな。顔が良くて、身体を鍛えている晴馬に対して一目惚れという現象が起きるのは必然的だろ」
「相変わらず容赦ないこと言うな、ロボットは」
僕は「そうか?」と首を傾げて無言の反応をした。
晴馬はとにかくモテる。
俳優のように小さく整った顔をしているから、告白したくなるのもわかるが。
2人とも相変わらずらしい。
そんな、日常的なやり取りを交わしながら歩いている。
その間、廊下で何人かの生徒とすれ違った。
その中の大半の女子生徒たちは、僕ら3人を見た後によくわからんが盛り上がっている。
おおかた、晴馬を見てのことだろう。
それにしても、なかなかいつもの穴場に辿り着かない。
2年4組の教室から穴場に向かうのが慣れていないせいだろう。
道順がわからず、何度か道を間違えている。
まー、正解か間違っているのかもわからないのだが。
全く、学校が無駄に広いのには困りものだ。
教室を出て、5分くらい経つ。
すると、前方から見覚えのあるシルエットが見えた。そのシルエットは小さく、ここ数日よく出会う人物と似ている。
晴馬とタクの先には、2人組の女子がこちらの方向に歩いて来ている。
そのうちの1人が、林木さんだ。
林木さんは僕には気付いていないらしく、横にいる女子と仲良く話している。
「アッコちゃん、ご飯食べるのどこがいいかな?」
「うーん、そうだね。屋上とか行ってみる?」
「やっぱり、アッコちゃんならそう言うと思ってたよ」
「私、人がいないところが好きだしね」
僕は前方の2人の声を聞いていた。
林木さんは笑顔で話している。
そして、林木さんは正面から歩いてくる僕たちに視線を移した。
その瞬間、僕は林木さんと目が合ったような気がする。
唐突に林木さんの挙動が変わった。
「って何? ユキどうした? いきなり何で隠れる?」
林木さんは俊敏に隣にいた女子の背中に身を潜めた。
まるで誰かに存在を知られたくないように。
あれっ?
いつもなら林木さんから話しかけてくるのに――
って、僕は何を期待しているんだ。まだまともに話したことすらないのに。
そういえば、入学式と昨日のこと、今日こそは聞きたい。
「どうしたユキ? ‥‥‥って、そういうことか。なるほどねー。ユキも青丘先輩のこと、気になってるの?」
「ちがうよっ!」
客観的に見ても仲の良さがわかる。
女子2人は、僕ら3人に聞こえる声で話している。そのことに気付いた晴馬とタクは足を止めた。
「おいおい、晴馬さん、後輩に嫌われてますぜー」
「嫌われてる訳ではないだろタク。どうしたんですか?」
晴馬は優しく女子2人に問いかけた。
なぜ、いとも簡単に話しかけることができるのだ?
コミュニケーション能力上位者だがらこそ、なせる技なのかもしれない。
「はじめまして、青丘先輩。私は1年の
「はじめまして。俺は青丘晴馬です」
「梅谷拓朗ー」
「ところで、俺ってそんなに有名なのか?」
「はい。それはもう。昨日のうちに1年生の青丘先輩ファンクラブができるほどには」
「あっ、そうなんだ」
晴馬は心にもない笑いをしている。
イケメンも大変そうだな。
ところで、朴野さんって言ったか。
この子は高身長でモデルみたいな容姿をしているな。美人の中の美人という表現で片付けるにはもったいない領域の人間だ。
なぜ、神はこんなにも不公平なんだ。
「もーユキ、いつまで後ろにいるの?」
「今日はアッコちゃんの後ろが良いの!」
「あれっ、朴野ちゃんの名前って杏子なのに、何でアッコって呼ばれてるの?」
「それはですね。この子が」
「ダメダメー! アッコちゃんその話は言わないでー!」
林木さんは、慌てた声で朴野さんの後ろから飛び出てきた。
顔がイチゴのように赤色に染まり、可愛らしい。
って、何言ってるんだろう僕は。
いつものことだが、僕は空気のようだ。
「えっと、はっ、はじめまして。青丘先輩、梅谷先輩」
「はい、はじめまして」
「おっ、ちっこいのが出てきたな」
そういうとタクは、いきなり林木さんの頭をポンポンと触った。
えっ、初対面の相手にそんなことする!?
僕は驚きのあまり目を大きく開いた。
「やめてください、梅谷先輩! ユキが怯えてます!」
「えー、別に身長減る訳でもないしイイっしょ」
「やめてくださーい!」
「ハハハー」
朴野さんは強引にタクの腕を振りほどいた。朴野さんは凄まじい形相でタクを睨みつけている。
タク、これは絶対嫌われたやつだぞ。
一方の林木さんはあたふたと困惑していた。
たぶんこれは、タクと朴野さんの温度差を心配しているのだろう。
無理もない。
タクに怒っても馬の耳に念仏を聞かせるようなものだから、どうにもならない。
「タク、ふざけるのも大概にしろよ」
すると、晴馬は仲介するべくタクの襟元を摘み、廊下の壁側に放り投げる。そして、話を続けた。
「そうそう、遅くなったが後ろにいるこいつはロボットっていうんだ」
「ロボット?」
いきなり晴馬が僕の代理で紹介を始めた。
まだ、心の準備が出来ていないのだが。
あれっ、この場合なんて話始めればいいんだ?
普通に、初めましてでいいのか?
いや待て。
それだけでいいのか。ここは何か話題を振るべきだろうか?
女子2人からの注目に耐えられる気がしない。
もう、言葉を選んでいる暇はない。
「はっはじ、はじめまして」
「あっ、はい。はじめまして」
思い切って話したが、口ごもって何言っているのかわからないだろ、これ。
それに、朴野さんの表現しがたい困った顔。
僕を相手にした時によく見る顔だ。
「えっと、ロボット先輩って呼べばいいんですか?」
「はっ、はい」
って、いつものことだが後輩にも敬語使ってしまう。
テンパって言葉に詰まる。
「そういえば何でさっき隠れたのユキ?」
「えっ、そっそれは・・・・・・お、お化けが見えたからだよ!」
「お化け?」
林木さん、それは無理がある。
そして、誰が見てもわかる。
全力で目をそらして話している林木さん。「嘘をついてます」とい言っているようなものだ。
林木さんは嘘をつくのが苦手らしい。
「嘘ついても無駄だよユキ。やっぱり、青丘先輩が気になるんでしょ? それとも、梅谷先輩? な訳ないか」
「それ、酷くなーい!」
朴野さんは目を細め、にやけながら林木さんを問いただす。
林木さんは晴馬とタクの名前を聞くが、首を横に振り否定をする。
ん?
これって、まさか。
「アッコちゃんもう行こうよ。先輩たちの時間を使っちゃうのも悪いし」
「林木ちゃん、ロボットのこと気になるの?」
晴馬が援護射撃をした。
林木さんは晴馬の言葉を聞いた瞬間、驚く早さで首を下に向けた。
顔を見せないように必死の抵抗をしているみたいだ。
この場合、僕は何かいうべきなのか?
林木さんをフォローするような何かを。
「えっユキ、ロボット先輩なの!?」
朴野さんも追撃していく。
林木さんは無言のまま、答えようとしない。
その時、僕は察知したような気がした。林木さんが次にとる行動を。
「は、林木さん」
僕の呟きが合図になったのか、林木さんは一目散に来た道へ戻っていく。
「ユキどこ行くの!? ちょっと待ってよー!」
やっぱりなのか。
林木さんの後を追うように朴野さんも消えていく。
今日も話せなかった。
それよりも、林木さんは僕と話したくないのか?
いや、話せないのか?
話しかけようとする度にどこかへ行ってしまう。
「なーロボット、詳しく話を聞かせてもらおーか」
「同感だタク」
まー、こうなりますよね。
今まで女子との接点が皆無だった僕をこれでもかって楽しもうとしている顔だ。
全くこの2人は。
僕はこの後、昼食の時間を使い、
林木さんとは部活勧誘の時に顔見知りになり、出会い頭に隠れたのは僕に気付かれたくないための行動だった。
ということで納得させた。
嘘はついていないつもりだ。
それを聞いた2人は何かを察したらしく、僕は慰められた。
謎なのだが。
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