部活勧誘ロボットくんと入学式ユキちゃん

 4月10日 月曜日





 今日は入学式だ。

 

 晴天の綺麗な青空は、高校生活を始める新入生を祝っているようだ。


 ‥‥‥はー、何て心にもないことを思うほど暇を持て余している。


 高校2年生である僕は通常、休日扱いになる日だ。

 本来であれば家でゲームをするか、バイトでもして1日を過ごしていたであろう。


 かくいう今日は休日を返上してバスケ部のビラを手に、新入生が来るのを待っている。



 「あっ、いたいた! ロボット!」



 自分自身のあだ名を呼ばれたことに気付く。

 辺りに散らばる騒々しく血気盛んな部活勧誘の群れを見渡した。すると、頭一つ飛び出ている存在と目があった。


 その存在は、僕の前まで駆け足で接近してきた。



 「今日は助かったよロボット! ビラ配りは人手が多い方が良いからな」

 「まー、今日は暇してたから大丈夫だよ。だがだ、1つ貸しだぞ晴馬」

 「わかってるよロボット。今度何か奢る」



 良い笑顔で見降ろしているのは、腐れ縁の1人――青丘晴馬あおおかはるまだ。


 爽やかイケメンで、バスケ部エースの看板を背負っている。さらに、性格も文句のつけどころのない優しい男だ。

 典型的なモテる男といえる。まー、ある1点を除けばだが。



 「ちなみにもう少しで、新入生が来るみたいだから準備よろしくなロボット」

 「了解。あんまり期待しないでおいてくれ。こんな眼鏡の根暗にバスケ部の勧誘されても入部したいと思わないだろうし」

 「大丈夫、大丈夫! じゃっ、また後でな」



 晴馬は部活勧誘の群れの中に、手を振りながら戻っていった。


 ぼー、と辺りを眺めて時を待つことにしよう。

 体育会系同士の高笑いや、謎のノリ。文学系は集団で固まって、ひそひそと何やら楽しそうだ。

 インドアで帰宅部の僕からしたら疎遠な世界だな。


 正直、憧れがないわけではないが、友達付き合いは現状で満足している。


 そんなことを思いながら僕は新入生を待っていた。





 無理だ、無理無理。



 この波に乗ることは僕にはできない。

 例えるなら、年末に行った同人誌即売会と同じ感覚だ。

 目の前の芋洗い状態の中に飛び込んだら、存在までもが溶けてなくなってしまうぞ。


 部活勧誘の群れで出来上がった道。そこを通っている新入生が少々気の毒になる。

 群れを避けて脇を通ろうとする新入生も、第二波の餌食になっている。


 あのエリアを越えないと校門にたどり着けないって、ある意味試練だな。

 という僕も去年は同じように被害にあったけな。



 「晴馬には悪いが、離脱させてもらおう」



 戦力外通告を受けた戦士のように、少し離れたところにあるベンチに座った。



 波が収まるまでココで待機することにしよう。

 賑わう声をBGMにしながら、僕は青空を見ていた。



 かれこれ10分は経ったが、一向に状況は変わっていない。



 たが、変わっているといえば、状態の遷移か。


 既に新入生の一部が、あの中に溶け込んでいるのだ。


 部活について詳しく話したり、何か熱く語っている連中。中には、スクラムを組んで騒がしい集団もいる。


 コミュ力高い人間は羨ま・・・・・・、凄いなと関心させられるな。


 僕は不要な人間関係は好まないから、別に羨ましい何て1ミリも思ってない。


 何て他愛ないことをぶつぶつ考えてると、



 ん?



 校門とは正反対の校舎の方に、焦った様子の『新入生』がいることに気付く。

 新入生となぜ断言できるのかといわれれば簡単なことだ。


 胸元にある花飾り――それが新入生の確固たる証拠だ。


 そうこう考えていると、その新入生が僕の方向に目掛け近付いてきた。



 「あっ! やっと見つけられました!」



 見た目通りの可愛らしい声をしている。

 身長は150センチもないくらいの童顔の女子だ。小学生といわれても納得してしまう。


 でも、まー、そんな女子の掛け声は僕に向けられたモノではないだろう。


 なぜなら、童顔を考慮しても超が複数個付くほどの美少女だからだ。

 学校内で数年に一度の逸材的な可愛さだ。

 

 こんな女子と話せたら高校生活も楽しくなるのかな。

 と言っても、いざ話せといわれたらコミュ障を発揮してしまう。


 もし、『友達』になろうとしても、壁が高すぎて越えれる気がしない。


 あれっ、そういえば友達ってどうやったらなれるんだ?



 「ふぅー。探しましたよ」



 気付くと目の前には、息を切らした女子がいた。



 探した。誰を?



 ひとまず、僕以外の誰かなのだろうと周囲をキョロキョロ見渡し、確認することにした。



 だが、誰もいない。


 まさか、僕!?


 ‥‥‥って、それはないな。


 だが、念のため確認は取るべきか。こんなにまじまじと凝視されているからな。

 人差し指を自分に挿して、「僕ですか?」と女子に無言で問いかける。



 女子は頷いた。



 本当に僕なのか!?


 いや待て。

 これは何かの罰ゲームかもしれない。

 しかし、入学式早々そんな遊びをするをような人間はいないだろう。


 すると、僕に好意があるのか!?

 こんなにも可愛いらしい女子が、眼鏡で根暗の僕に、


 って、100パーセントないな。


 ここまでの条件を踏まえて考えるとだ。

 今日僕が話しかけられる要素を挙げろ、といわれたら、それはただ1つ。


 バスケ部の部員募集だ。


 いや待て。

 答えを出すにはまだ早い。


 女子は先ほど校舎の方から走ってきた。

 すると僕がバスケ部のビラを持っていることは、わかるはずもない。

 ましてや、僕のこの見た目で運動部を名乗ったら違和感しかないだろう。


 いや待て。

 僕がバスケ部の勧誘をしている、と実は知っていたらどうだろう。

 それを察知する何か能力を持っているのかもしれない。



 「ちょ、ちょ、超能力者ですか?」

 「違います!」



 ですよね。


 テンパって推測を誤った。

 そもそも初対面の相手、しかも女子と話すということは僕にとって、



 月からバンジージャンプしろっ!



 といっているも同然。


 とりあえず、思考を整理しよう。


 今の解が間違いと考えると、最有力候補として挙げられるのは――


 やはり晴馬か?


 さすがは晴馬、バスケ部のエースであるイケメンは凄いな。


 いや待て。

 僕と晴馬がなぜ知り合いと知っている。

 この事実を知る人間は、知る限り指で数えられるほどしかいない。


 となると、あの時か。2人で話していた。

 

 そんなわけないか。

 話が脱線してしまった。もう思考回路が追いついていない。

 要するに、晴馬のことが気になるから仲介してくれ、という内容が大筋であろう。



 「は、晴馬・・・・・・バスケ部の青丘のことで」

 「違いますよっ!」



 否定された。もう、答えがわからない。


 僕は女子の顔を直視することが恥ずかしくてできない。

 なので、チラチラと視線を送りながら様子を覗っている。



 すると、女子の顔が――


 悲しいような

 焦っているような

 困ったような



 感情が入り混じった顔色になった。


 しかし、パッとスイッチで切り替わったように笑顔になった。


 今のはいったい?



 「あっ、いきなりすいません。えっと、私は林木雪葉はやしぎゆきはといいます。えっと、これから1ヵ月よろしくお願いします。ロボット先輩!」



 笑顔が神々しくて僕の目が浄化される。

この可愛らしい小動物を思わせる女子は、林木さんという名前らしい。雪葉という名前も、とても印象にあっているな。



 って、あれっ?



 僕が林木さんを見ると、軽くお辞儀し、すぐさま校門の方へ駆けて行ってしまった。



 1か月?

 ロボット先輩?



 僕は初対面である林木さんの言葉を理解できなかった。



 どういうことだ?



 林木さんにはいろいろと聞きたいことがあるが、それはまた会えたらにしよう。


 そのうち僕は考えるのをやめた。


 今日は林木さんとの会話で3日分のコミュニケーションエネルギーを使った気がする。


 はー、太陽光が気持ちいいな。

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