四つ目の話を読み終えて時計を見ると、いつもなら由美子さんから連絡が来るはずの時間はとっくに過ぎていた。しかし確認してみてもスマートフォンにもSkypeにもなんの動きもない。

 煩わしいだけの電話だったが、今となっては早く由美子さんと話したい気持ちでいっぱいだった。

 最初はタイトルを似せただけの怪談の寄せ集めだと思っていたが、四つ読んでやっと分かった。これは読み進めていくと徐々に一つに収束していくホラーミステリーなのだ。


「ある少女の告白」に出てきた、妹に裏切られ首を吊ったお豊という女性がこの一連の物語のキーパーソンだ。

 時系列で並べると

 「ある少女の告白」

→「ある民俗学者の手記」

→「ある夏の記憶」

→「ある学生サークルの日記」

 となるだろうか。

 お豊は死に、怨霊となった。おそらく亡くなった時妊娠していたために、子供に対して強い思い入れと嫉妬心がある。「民俗学者」に出てきた嬰児殺しの図はお豊の怨霊が嬰児を食らっているものだったというわけだ。村人はお豊ヶ淵と名前を冠するまでに至った非常に強い怨霊の魂を鎮めるために我が子を生贄に捧げた。一つの家庭に一人しか子供がいなかったのも病気の子供がいなかったのも全てお豊に捧げていたから、ということだろう。さらに村人はお堂のようなものを作ってそこに神棚を置いた。

「夏の記憶」に出てくるのもその神棚であろう。おそらく神様に祈りが通じたのだろうか怪異現象(祟りと言ってもいい)は収まった。しかし喉元過ぎればなのか、あるいは持ち主が変わったことでそもそもの由来が忘れられたのか、神棚は粗末に扱われるようになった。そしてついに神様は出て行き、ふたたび祟りが起き始めてしまう。

「学生サークルの日記」で学生グループが訪れたのがまさにお豊ヶ淵だった。たまたまサークル内部の恋愛トラブルで中絶をした学生(愛子)がいたために、お豊の影響を受けてしまう。最後の覚えなくてはいけない7つの言葉もこれらの4つの話を読むといろいろな解釈ができる。


 豊穣→もちろんお豊のこと。

 赤ちゃん→お豊の亡くした子、あるいは食われた子。

 神様→怪異現象を抑えたのに、捨てられてしまった神様。

 天井→「夏の記憶」「少女」「民俗学者」の情報を統合すると、お豊が首を吊ったときにシミがついた床はお堂の天井、少年の実家の天井になっている。

 医者→お豊のお腹の子の父親、間引きの医者、さらには「学生サークル」に出てくる学生は全員医学生である。

 まびき→そのまま。

 だるま→子供の健やかな成長を願う姫だるまのことだろうが、だるまには四肢欠損の人間の意味もある。お豊に四肢を毟られた子供のことか。


 全ての話は繋がっている、由美子さんの言ったとおりだった。ホラーミステリーとしては説明不足なため完成度は低いが、素人、しかも普段創作をしない由美子さんが考えたにしてはとても楽しめた。説明不足なのも、感想を言って盛り上がるためかもしれない。よくわからない方が怖い話は面白いと思うし、私好みの作品だった。

 この解釈の答え合わせをはやく由美子さんとしたい。こちらから電話をかけてしまおうかとさえ思った。しかしもう、常識的に他人に電話をかけていい時間ではなくなっている。

 明日の朝メールでも送ろう、そう思ったとき、インターフォンが鳴った。

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