第13話 感染9日目
感染 9日目
朝、二人は一緒に目を覚ました。カーテン開けると綺麗な日差しが入ってきた。窓を開けると心地いい空気が部屋に入る。
「今日は綺麗に晴れてるね。」
「わかるの?」
「なんとなくわかるよ。空気の感じも違うし、晴れの日って匂いも違うの。」
優子らしいと思った。そういう彼女が好きだった。
昼頃まで一緒にいた後、幸太郎は一度実家に戻ることにした。
「夜、戻ってきたら晩御飯は俺が作るよ。」
「ありがとう。オムライスがいいな。」
「わかった。じゃあ」
優子にオムライスを作りに帰ってくるのを楽しみにしながら、部屋を出た。
優子とのこんな日が永遠に続けばいいなと思いながら。
優子の家から実家に戻るまでの道で人が数人出てきているのを見た。症状が進行している人が出てきている。自分の両親だけは大丈夫であって欲しいと願いながら、自転車のスピードを上げる。
家に着いた。扉は開いていて中に入っても誰もいなかった。どうやって玄関の鍵を開けて出て行ったのかと思ったが、感覚がまだ残っている時にドアの鍵を開けたのだろうと思う。
内側の鍵とドアノブには血がついていた。
幸太郎は慌てて外に探しに出た。
近所は全て探したがどこにもいなかった。
いつ頃出て行ったかもわからない。
気づいたら繁華街の近くまできていた。
街はかなり多くの人がいた。
幸太郎が見たのは目を覆いたくなるようなものだった。
ところどころでシャッターにぶつかったり人どおしでぶつかったりしていた。多くの人が流血していて街中血の海である。
あらゆる場所で人と人とがぶつかって転ぶ、壁にぶつかっては転ぶ。どんな小説や映画でもこんな酷い光景は見たことがない。地獄のようであった。でも人は微笑んでいる。痛みを感じないどころか転ぶことに快楽を感じているのだ。
あちこちで何かにぶつかる音がする、それと同時に人の笑い声が。その異様な光景に幸太郎は吐き気をもよおした。
優子のことが気になりすぐさま引き返そうと思って、来た方角を振り向くとすごい数の人がこちらに向かっている。
幸太郎はぶつかりながら人混みをかき分けながら進む。普段なら人と人がこんなぶつかりかたをしたなら喧嘩沙汰になっているだろうが、転んで尻餅をついた人は嬉しそうに笑っている。何度でも転びたいと行った様子で笑っている。
なんとか街を抜けて振り返ってみた。血だらけの人々はとても幸せそうであった。
今まで些細なことで衝突して争ってきた人類なのに、今は体に傷を負うほど人とぶつかっても幸せそうであった。
その後優子の部屋に戻ったが、彼女はもういなかった。
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