祭りばやしと、剣舞いと、火花と、

 ペローネの姿が消えた。


『っ!』


 剣舞天狗ソードダンサーの演算知覚、そしてクイリーノ自身の勘が右手の機兵剣を振るわせた。


 轟音ごうおん、振動、もうそこには誰もいない。


 剣舞天狗ソードダンサーとの思考同調率を上げる。

 範囲索敵が360度に存在する敵の存在を知らせる。

 

『これはっ』


 最小限の動きで機兵剣と砲盾を動かし、全方位からの不可視、超高速の攻撃を受け、流し続ける。


 強烈な警告音アラート操縦腔そうじゅうこう内に響く。

 対象の軌道を剣舞天狗ソードダンサーの演算機が悲鳴を上げながら弾き出す。

 20%、16%、31%、27%、0.0000001%と目まぐるしく変動する五つの着弾予測。

 

 避け損い直撃した部分はごっそりと食い千切られ、そのほころびが全体のリズムを崩していく。


出鱈目でたらめだ!!』


 65%の予測に対応して機兵剣を振るった瞬間、直前で数値が0%へ変わる。


 バキィン!!


 それは剣舞天狗ソードダンサーの機兵剣が折れた音。

 予備の機兵短剣を抜き、砲盾の弾幕で時間を稼ぐ。


 クイリーノにも奥の手はある。


 魔力炉の出力を最大にし、全リミッターを解除。その上でクイリーノが剣舞天狗ソードダンサーに狂戦士化の魔法を掛ける。


 この状態となった剣舞天狗ソードダンサーはまさに鬼神。

 戦術的な運用領域を超え、戦略級に比する打撃力を持つに至る。


 欠点は一分という稼働時間の短さ。

 そして何より殆ど制御が出来なくなるという事。


 かつてクイリーノがペローネの入学試験の時に口にした「暴れ牛のように振舞う方が戦果も上がるだろう」という言葉は、少なくない自嘲じちょうを含んだものだった。


『ペローネ・パム、俺は楽しい』


 使用には国の許可が必要となる。

 この定めを破った場合、クイリーノは重い罰を受ける事になる。


『お前はどうなんだペローネ・パム』


 辛うじて基幹部は守り通している。

 だがそれも持ってあと少しだろう。


 予測が収束し、正面、100%が表示された。


『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』 


 砲盾の魔導弾さえ呑み込んで、巨大な黒鉄の大鮫が襲い来る。


『く!?』


 左腕が食い千切られた。

 踏み止まり、剣舞天狗ソードダンサーは空を仰ぐ。


 鉄色の翼を広げ、極大の魔力刃を出す魔導大剣を振り被るペローネがいた。

 美しい黒髪が星々の光で輝いている。

 獰猛どうもうに笑う紅唇と、どんな宝玉よりも眩く輝く蒼い瞳。


 その光景にクイリーノは魅入られた。

 忘我の中で、クイリーノは剣舞天狗ソードダンサーの最後の力を解き放つ。


『鬼面解放』


 剣舞天狗ソードダンサーの各部から高熱の炎が噴き出し、騎士の面頬めんぼおに似た顔が縦に割れ、赤い、鋼の鬼顔が姿を現す。


 炎を纏う残った右腕が、その手に握る機兵短剣の切先をペローネへと向けた。


「らああああああああああああ!!」


 ペローネの咆哮ほうこうと。


『うおおおおおおおおおおおお!!』

 

 クイリーノの叫びが交わる。


* * *


「ペローネさま、がんばれ」


 観覧席の一画、元パムの住人だった少女がペローネを応援していた。

 そして、彼女の友人達も必死に「がんばれ」と声を出し続ける。


「ペローネさま、がんばれ」「ペローネ様がんばれ!」「ペローネ様がんばって!!」


 彼女達と一緒に座る大人達もまた、祈るようにペローネを応援する。


 元パム、元フラレント王国の者達にとって、ペローネこそが最後に残った希望だった。


 ペローネが力を示す事で、彼女の下に多くの者達が集うだろう。

 それがいつか、失った故郷を取り戻す力になると、彼らは信じていた。


 ペローネが千軍の力を解放し、クイリーノが奥の手を切った。


 そして、戦いは決着を迎える。

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