【WEB版】冰剣の魔術師が世界を統べる〜世界最強の魔術師である少年は、魔術学院に入学する〜

御子柴奈々

第一章 冰剣の魔術師

第1話 ようこそ、アーノルド魔術学院へ


「おぉ……ここがそうか……やはり、でかいな」



 門の前に立つ。


 俺はやっと辿り着いたのだ。あの、アーノルド魔術学院に。


 世界で魔術を学んでいる者ならば、この学院に入学することは夢であり、通過点でもある。世界で活躍している魔術師は、そのほとんどがこのアーノルド魔術学院出身である。そのため、偉大な魔術師になろうとする者はここへの入学を望む。


 そうして俺、レイ=ホワイトもまたこの学院に入学することが可能となった。


 試験はまぁ……俺は実は免除されての入学だ。決して裏口入学ではないが。


 実際の試験は筆記と実技の両方らしいが、この学院の基準はかなり高い。それこそ貴族も多く、それ以外にも魔術師としては名家の子どもが数多く入学するからだ。


 その中でも俺は、唯一の一般家庭出身の魔術師らしい。


 母も父も、それに祖父も祖母もまた魔術師ではない。家系に誰一人として魔術師はいないのだ。


 稀に起こるらしいのだが、突然変異というやつだ。俺はこの家系始まって以来の魔術を行使できる人間だった。そうして俺は紆余曲折あって魔術師を目指すようになり、今に至るのだった。



「いいことレイ。つらい時は、帰ってきてもいいのよ」

「母さん。大丈夫だよ。俺だって、もう魔術師の端くれだ。覚悟ぐらいは出来ている」

「そうなのね……立派になったわね」

「そうだな。父さんも嬉しいぞ」

「お兄ちゃん! 来年は私が行くから! 待っててね!」

「あぁ。もちろんだ」



 家族の力押しもあって、俺はたった一人でやってきた。田舎の小さな家からたった一人で俺は……この学院に……!


 実は途中で何度も道に迷ったのは秘密だ……。


 そうして俺はこの門をくぐる。周りからはチラチラと見られているが、そんなことは気にしていない。うん……おそらく自意識過剰だろう。それは間違いない。



「ねぇ……あれって……」

「うん……噂のアレじゃない?」

「あぁ。アレね」

「アレよ……間違いないわ……」



 ヒソヒソと話し声が聞こえるも、それは間違いなく俺には関係ない。アレとは何のことか知らないが、そのまま無視して歩みを進める。



「えーっと……道はこっちであっているのか?」



 生徒手帳に付随している地図を見る。この学院は本当に広い。普通に歩いていれば迷ってしまいそうなほどに。もちろん人の波に沿って進めば目的地には辿りつけるのだろうが、一応自分の頭でも把握しておきたい。


 そうして立ち止まってじっとそれを見つめていると、後ろからドンッ! と衝撃がやってくる。



「チッ……気をつけろよ」

「あぁすまない。少し地図を見ていてな」



 もちろんすぐに謝罪する。今回は人が歩いている中で急に立ち止まった俺が悪いだろう。素直に頭を下げる。



「ん? お前……まさか、レイ=ホワイトか?」

「おぉ! 俺のことを知っているのか? それは心強い。田舎から出てきて知り合いもいないんだ。これから仲良くやってほしい」



 と、俺はその男に右手を差し出すも……。


 バンッ! とそれは払い除けられてしまう。



「は……テメェ、この学院始まっての一般人オーディナリー出身だろ?」

「そうだが……何か問題でもあるのか?」



 その男、加えて他の取り巻きもまたニヤニヤと俺を見つめる。



「分かっていないのか? ここでまともに生活したいなら、最低でも魔術師の家庭が条件だ。それこそ、貴族ノーブルであることが望ましい」

「むむむ……? どういうことだ? すまない。魔術師の世界にはまだ疎くてな。詳しく教えてもらえると助かる」

「はっ……そんな面倒なことするわけねぇだろ。ま、せいぜい頑張れや。期待してるぜ、一般人オーディナリーよ」



 そうして彼らはスタスタと歩みを進めてしまう。


 俺としては早く友人をゲットしたかったのだが、こればかりは仕方がない。相手にその気がないのならば、無理強いするのも悪いというものだろう。



「ね、君さ……」

「ん? 何か用か?」

「その、話し声が聞こえてきてさ……あ! その前に自己紹介ね。私はアメリア=ローズよ」

「ミス・ローズ。これはどうも。俺はレイ=ホワイト。気安くレイで構わない」

「私もアメリアでいいわ。同じ新入生だしね」

「そうか。ならよろしく頼む、アメリア」

「さて、と。ここで立ち止まっているのも、よくないし。話しながら行きましょう」

「あぁ助かる」



 俺はアメリアと共に歩みを進める。


 アメリア=ローズ。


 長い紅蓮の髪が特徴的で、さらに灼眼しゃくがんのその双眸はどこまでも透き通っており、純粋に美しいと形容すべき容姿をしていた。


 それに見るからに活発そうなのはすぐに理解できた。プロポーションもよく、女性にしては背が高い。俺が180センチ弱だから……170センチはあるのか。


 スラッとした身長もそうだが、何よりもその立ち振る舞いに気品というものを感じる。


 そういえば、ローズという名前には聞き覚えがあるが……。



「あなたこの学院始まっての一般人オーディナリーらしいわね」

「そうだ。突然変異の一種らしくてな」

「へぇ……そうなんだ。これから困ったことがあったら、何でも相談してね」

「それは助かるが、アメリアは親切だな」

「ちなみに私のこと、知らない? 実は有名人なんだけど……?」

「いや申し訳ない。君のことは先ほど初めて知った。浅学で申し訳ないが、教えてもらえると助かる」

「そうなんだ。でも、一般人オーディナリーに浸透していないのは当然かもね。えっと……で、魔術師の中に貴族がいるのは知っているよね?」

「あぁ」

「その中でも三大貴族って聞いたことない?」

「! ピンときた。まさか、君の家がそうなのか?」

「そう。ローズ家は三大貴族筆頭。ちなみに私はこの学年の首席よ」

「おぉ! そんな英傑とこうして相見えることができるとは……サインをお願いしても?」

「いいけど……レイって変わってるよね……」

「そうか? まぁ、とりあえずこの色紙に頼む。あと妹の分も……」

「意外と主張激しいわね。ま、いいけどね。悪い気はしないし」



 そうして俺は持参していた色紙にサインを書いてもらう。こんな時のためにサイン色紙とカラーペンを忍ばせていてよかった。



「はい。どうぞ」

「おぉ! すごい! 達筆だ!」

「まぁ一応有名人だからね〜」



 アメリアも満更でもないようで、少しだけ鼻が高い様子だった。



「それにしても、あなた……大丈夫なの?」

「ん? 何がだ?」

「さっき、嫌がらせされてなかった?」

「? いや別に。ただ挨拶は拒まれたがな。いや、都会の挨拶はなかなかに難しいな。やはり俺の作法が間違っているようだな……うん、勉強になる」

「レイが気にしていないならいいけど……くれぐれも気をつけてね」

「何がだ?」

「この学院は派閥争いが激しいの。それこそ、どの派閥に所属するかで卒業できるかどうかが決まるように。だから三大貴族は特に優遇されるの。自分でも言うのもなんだけどさ。そんな事情だから、一般人オーディナリーのあなたはきっと……大変だと思う」

「ま、そんなことはいいさ。派閥だろうが、なんだろうが、俺はこの学院生活を謳歌したいと思う」

「前向きね。それとも能天気なだけかしら?」

「ふ……後者に一票だな」

「ふふ、何それ! あはは、ちょっとあなたのこと気に入ったかも」

「そうか? 田舎から出てきて友人はまだいない。アメリアが学院での初の友人になってくれると助かる」

「そう言われると、ちょっと照れるけど……そうね。これから友人としてよろしく」

「あぁ」



 今度はがっしりと握手を交わす。




「そういえばレイは知ってる?」

「ん? 何をだ?」

冰剣ひょうけんの魔術師の噂」

「……いや存じないな。詳しく聞いても?」

「数年前に現れた、天才魔術師。特に氷魔法に長けていてついた二つ名が、冰剣ひょうけんの魔術師。既に、世界七大魔術師の一人とも言われているわね。曰く、氷魔法の真髄を極めているとか……」

「……そいつがどうかしたのか?」

「実は今年の新入生の中にいるかもっていう噂なの。でもありえないよね。そんな人がわざわざ学院に来るとは思えないし」

「……そうだな」



 そうして俺たちはその後も適当に雑談を繰り広げながら、入学式が行われる講堂に向かうのだった。

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