理不尽の対義語ってなんですか
@AoNoSeKaI
《虚無につき》
世の中は理不尽で成り立っている。
僕は今それを非情にも非常に痛感している。
社会人2年目。
次第に学生気分も抜けて、毎日社会の波に抗っている社会人2年目の春。
そして今日は月曜日。時刻は7時半。
本来ならばすでに満員電車の人混みに潰されながら通勤している時間だ。
だが僕はまだベッドの中にいる。
そう、まだベッドの中だ。
決して眠いからなんていう理由ではない。
むしろ一睡もしていないが、眠たくもない。
部屋には明かりも付いていない。バッテリーマークの赤い携帯が、ただ部屋をボンヤリと照らす。
ディスプレイにはSNSで送られてきた、1通のメッセージが表示されている。
送り主は「かほ」。
メッセージは以下(原文ママ)
5/3(月)
0:38
【別れましょう】
既読
シンプルすぎるたった6文字だが、僕の精神を燃やし尽くすには十分だった。
「うん、夢ではないな。夢じゃない。夢じゃないのか…」
声に出すと驚くほど現実味が増した。
いつもなら煩わしい通学中の子供たちのはしゃいだ声も、今日は聞こえない。
ただ、いつもより少し早い心臓の鼓動が軽快に弾む。
昨晩、唐突に、そして一方的に告げられた四年間の恋の終幕。
まったくもって予想だにしていなかった展開に、僕の思考は停止した。
理由は彼女の浮気。
学祭時代から付き合い、それなりに苦楽を共にし、お互いにこれからの人生を共に歩む将来像を描いていたと思っていた。
自分で言うのもなんだが、良い彼氏だったと思う。
毎日彼女に連絡を取り、休日にはデートに行き、誕生日にはサプライズ。
満点ではないかもしれないが、及第点以上は取れていたはずなのに何故。
勘違いだったのか。
そうだ、勘違いだったのであろう。
僕は今世紀最高の道化師(ピエロ)だったのだ。
脳みそが頭蓋から抜け落ち、考える能力を失ったかのようなひたすらな無。
比喩などではなく、本当に。
本当に頭が空っぽになった気分だ。
泣くこともできぬ。
立ち上がることもできぬ。
声を出すこともできぬ。
思い出すこともできぬ。
それなりに、最高までとは言わないまでも、色付いていた僕の人生が、一気に色を失った。
そして朝。
気付けばカーテンの合間から朝日が差し込む時間帯になっていた。
「死にたくは…ないな」
なんの変哲も無い六畳一間の天井に向けて、ぼそりと呟いた。
このまま何もせず、植物が枯れていくように人生を終わらせてしまおうかとも考えたが、どうやら僕はまだ死にたくないらしい。
何が僕をそう思わせたのかは全くもって不明だが、とにかくそう思った。
上半身を起こし、とりあえず携帯に充電コードを繋いだ。
瀕死の状態から息を吹き返した携帯のディスプレイ。
それを見て、僕は少しだけ現状を楽観視することができた。
そうだ、きっと僕にも充電コードがあるはずなのだ。今は瀕死の状態だけれど、きっと。
自分でも驚くほど馬鹿馬鹿しい発想だと思う。
だが、こうして僕の充電コードを探す旅が始まったんだ。
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