第三話 同胞団中継基地
食事らしい食事にありつけたのは何日ぶりだろう。
ちゃんと調理され器に山と盛られた料理、それは固焼きパン、焼いた肉に野菜、具だくさんのスープ、缶詰めや乾燥されたものも多いが温かい食事というだけでもありがたかった。おかわりを進められ、ルシルたちは遠慮なく甘えた。
「君たちが例の機攻少女隊とはな。荒野を飛ばしてくるビルド・ワーカーがいるというので警戒していたのだ。この近くにはテラリスの息のかかった村も多い。奴らの“水飲み場”となっているらしいからな」
初老の男が声をかけてくる。その手にはあの新聞が握られていた。
「ありがとうございます。保護していただいて、食事まで」
頭を下げると男は、この程度のことは気にするな、と言って手をひらひらさせた。
「
そこは谷底をずっと進んでいったどん詰まりにあった。大きな広場になっていて、すり鉢状、はっきり言えば巨大な墓穴だ。ただし斜面は急で、穴の底にも別の大きな墓穴があった。
ウォール・バンガーのコンテナをさらに長さを二倍にしたような大きなものが整然と置かれ、さらにそれが二段三段と積まれている。斜面にも階段状にコンテナが置かれ、他にもところどころにプレハブハウスが設置されていた。
今、ルシルがいるのもそんなプレハブハウスのひとつだ。長机があって、備えられたキッチンで料理を作っていた。真後ろにあるコンテナの扉と繋がっていて、そこから食料を持ち運んでいた。
ここで働く人数も多い。同胞団が街を作ったと言われても信じてしまうだろう。
「いや、なんていうか、中継基地だな。北からの資材や補給品なんかをここでいったん集めた後、各地に振り分けるんだ。リスタルまで運んでしまうと遠回りになるところもあるからからな。まあ、人も多いし物流もけっこう盛んなんで、このまま村にして居ついてしまうのもいいかもな」
男は名をカリムと名乗った。彼はそろそろ全員が食事を終えるのを満足そうに眺めていた。
「君たちはハルミドに向かっているんだろう? 何故こんなところにいる? 随分と西に寄っている。ここからではリスタルのほうがまだ近い」
「そうなんですか? 場所がわからなくて……」
ルシルはこれまでの経緯をかい摘んで説明した。アンダー・コマンドの襲撃、テラリスに近しい村、追手を避けるための奇襲、そして脱出。
「そうか、それは大変だったな。ここまでくれば安心だ、と言いたいところだが……」
彼は少し眉間に皺を寄せた。
「リスタル進攻が始まりつつある。軍が集結しているんだ。この少し先をアンダー・コマンドが行き来していて、ここがいつ発見されるか冷や汗ものだ」
「……大きな戦いになるんですね」
しかしカリムは哀しそうに首を振った。
「いやそうでもない。残念ながらリスタルは直ぐに陥ちる。持ち堪えることは出来ないたろう。でも難民の多くはハルミドのほうに向かったのがせめてもの救い、じゃなければ死者は桁違いだったろうな。君らのおかげだよ」
そう言われるとルシルは居心地が悪かった。特に何かをしたわけではない。むしろ戦いから逃れるためにハルミドを目指したのだ。それに難民をハルミドに逃がすのはテラリスの考えだ。同胞団は逆に人間の盾にするためリスタルに迎え入れていたはず。ルシルはこのカリムという男のことが気になった。
「あなた方はリスタルに向かわないんですか? 同胞団なら戦闘に参加するものとばかり」
それがね、とカリムが首をすぼめる。
「我々の中にだって戦争なんかやりたくない者は多いんだ。テラリスと正面から戦ったって勝てるわけがない。同胞団を仕切っている連中なら分かりきったことだ。私がここを任された時、そういう連中に声をかけて、何か適当に理由をつけて引き籠もろうって考えたわけだ。出来るだけひっそりと息を潜めているつもりだったんだが、気づいたらもう百二十人くらい集まっている」
ルシルは意外だった。ならばこのカリムという男は同胞団でもそこそこ上の立場にいる人間ということだろうか。それが戦争に参加しないなど有り得るのだろうか。しかも百二十人ともなると同胞団の戦力としては大きな痛手だろう。
それに、とカリムが付け加えた。
「リスタルが陥落したら、そこから逃げ出した連中の避難場所がいるだろう? つまりそういうことだ」
それを聞いてルシルは少し納得した。同胞団の火を消さないためにも、こういう場所は必要なのだ。
しかしそれはルシルにとっては好都合だった。もし彼らがこれからリスタルに向かうのであれば、間違いなくルシルたちも駆り出される。そうでなくてもビルド・ワーカーは貴重だ。取り上げられて放り出されるか、悪くすれば力ずくで奪われていた可能性もあった。
「この先を進むのなら気をつけろ。さっきも言ったようにテラリスが集結してきている。アンダー・コマンドもいるし、リスタル攻略のためにビルド・ワーカーも集められている」
「ビルド・ワーカー? みんな破壊されたんじゃあ……」
「接収されたものが沢山あるんだよ。リスタルはバリケードを張っているからそれを破壊するのにはビルド・ワーカーが最適だ。そんなのと鉢合わせしたら大変だぞ」
そう言われて、確かに、とルシルは少し不安を覚えた。出来ることなら直ぐにハルミドに出発したい。
「あの、ありがとうございました。あたしたち、これから直ぐに準備をしてハルミドに向かいます。みんな、いい?」
それに全員が頷いた。
「そうか、余り支援は出来ないが、我々も出来る限り手を貸すよ」
カリムが言って、ルシルは頭を下げた。
「ありがとうございます!」
後はハルミドまで突っ走るだけ。もう目的地は直ぐそこにあるのだ。
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