SCP-005-N 『蝗害』
「じゃあ、SCP講習会を始めようか、餅屋くん」
よろしくお願いね、と言われたので半ば儀式的に、よろしくお願いしますと返す。どうやらやる気満々らしく、春夏冬先輩にも「あの娘は~、誰かに何かを教えることが~、大好きなの~。だから~、ちゃんと受けてあげてね~?じゃなきゃ~、降格よ~!」と少し狂気染みた釘を刺されている。……降格、好きだなぁ。
「じゃあ、早速なんだけど、講習第1回目を始めちゃおうか!」
「あ、僕の自己紹介は大丈夫ですか?」
「あ。…まあ、うーん、大丈夫でしょ。」
性格的にも春夏冬先輩に近いのか、結構大ざっぱだった。
「ま、まあ!それじゃあ~、今回のSCPは~…?デケデケデケ…じゃん!SCP-240-JP
~!」
いきなり掛けられた騒々しい声と共に現れたのは、なんと…!空っぽの虫かごだった。
…え?
「…先輩、もしかしたら、この空っぽの虫かごがそうなんですか?」
「うん、そうだよ。ああ、大丈夫だよ!もちろん、キチンとした手順で持ち出し申請したからね。いやっ、ホントだよ! 大丈夫だからね! ……ああ、そうだ!コレは一応触る事も出来るから、君も触ってみるといいよ!」
必至にしゃべり倒されると少し怪しいが、取りあえず持ってみる事にする。……至って普通の、市販の虫かごと変わらなさそうだ。振っても音はしないし、透明という訳でもなさそうだ。考えても分からないので、棚空先輩に返す事にした。
「あ~、流石にまだ分かんないか~…とりあえず、このSCPの解説をしようか。改めて言うけど、コレはSCP-240-JP。通称「0匹のイナゴ」って言う奴で、見た目は普通のイナゴ。体長は30~から40㎜で、生きている時は普通のイナゴとなんら変わりはないんだけど、このイナゴが死んだときに異常性が発動するんだ。もし、事故とか実験でイナゴが死んだらぁ~…なんと!!《死んだこと自体を無かったこと》にしちゃうんだよ!」
死んだこと自体を無かったことに……? ああ、確かに言われてみればそうだな。
「…あ、だからその中には、0匹しかいなかったんですね。」
「あー…まあ、そういう訳だね。そんでまあ、このイナゴはSCPだから『収容』しないと、ということで、総数を定期的に報告、維持する必要があるんだ。ま、元々の数が少なかったからね、今は事故とか実験で収容当時とおんなじ0匹になっちゃったんだよね。いや~、残念!生きてたらもっと面白そうなこともいっぱいできたのにな~!」
あれ…収容当時と同じ0匹…?なんか変だな…?
一瞬何か違和感を感じたが、その違和感の正体がなんなのか分からないまま、説明
が進んでいく。…まあ、後で聞くとするか。
「そんで、このイナゴはとある〈要注意団体〉…ああ、〈日本生類総研〉って言う大迷惑なところなんだけど、これらについてはまた説明するよ。で、こいつらが書いたメモによると…どうやらこのイナゴは、事故とか災害が来た時に、絶滅しない様な生物の遺伝子配置を作りたかったらしい。そんで出来上がったのが、このイナゴってわけ。更に! 工具とかで破壊しても、他の生物の餌にしても、煮て焼いて食って出産させても総数は変わらず0匹のまま。でも流石に、その内怪しいってことに気付いた。『おい、このイナゴはずっと0匹のままじゃないか。出産させても0匹っていうのは、一度に産む数としては少ないんじゃないか?』ってね。さあ、どこが不思議か分かった?」
「う~ん…さっぱり分かんないですねぇ…。やっぱり現実改変っていうのがズルいじゃないですか。…そうだ、最初の収容当時から0匹っていうのが少し変じゃりませんでしたか?」
「お、なかなかセンスがあるねえ!よし、じゃあちょっと手を出して?」
そうやって棚空先輩は紫色の液体が入った注射器をとり出した。
「……え、それなんですか?超怪しいんですけど…」
「あれ、見たことない?これは財団の誇る、対現実改変用お手軽キットの一つ、
『パパッと血液転移注射器』だよ?」
「え!?そんなヤバそうな奴があるんですか!?」
「まあまあ、とりあえず…一回やっちゃえばすぐ分かるからさあ…刺す必要も無いし」
「え?どういうことですか…?」
そうやって棚空先輩は俺に向けて注射器の蓋を押した。そして、中の液が発射!
…されず、何故かどんどん減っていくだけだ。…まさか。
「血液転移ってそういうことか…!もうそれがSCPじゃないか…!」
「まあまあ、そろそろ効いてくるはずだよ?そしたら真相が分かるよ!」
半ば騙されたような形で注射(この表現は正しいのか)真相がこんなもので分かるのか?…あ!
「消すのは、生まれた事実ごとか…!」
「ピンポンピンポンピンポ~ン!そういうこと!このイナゴ、実は『死んだ事実を消去する』んじゃなくて、『生まれた事実ごと消去する』んで~す!いや~、なかなかスジがあるね~、君は!この調子ならすぐレベル昇格出来るよ!」
「ど、どうもありがとうございます…」
そういう事か…納得した。しかし、難しかったな…。今数分受けただけなのにどっと疲れが溜まった。ハイテンションな人についていくというのはこんなに大変なのか、というのをはじめて理解した。《アレ》のせいだとは絶対に考えたくない。
「じゃあ、今日はもうこれでおしまいにしようか」
「あ、はい、わかりました。ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ。久々に誰かに教えれて気分がいいや!…ねえ、今日は呑みにいかない? 僕が奢るよ」
「おお、ありがとうございます!いきましょういきましょう!」
こうして、第一回の講習はこれで終わった。…あ、明日学校だった。
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0匹のイナゴぐらいだったらみんなわかると思ったんですけど、一応僕の肩慣らしってことで、よろしくおねがいします。
SCP-240-JP 「0匹のイナゴ」
by dr_toraya
http://ja.scp-wiki.net/scp-240-jp
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