第十話 ミミック、紹介する


「ま、ま、魔王様!! 一体誰なのですか! その女は!」


 玉座に来るなり、マチルダは怒号を上げた。

 隣のロベリアも目を丸くしている。


 ツバキを仲間に引き込んだ次の日の、昼時。


 さすがに黙っているわけにはいかないので、側近二人にツバキを紹介することにしたのだが。


「サムライエルフのツバキだ。今日から仲間になる。仲良くしてやってほしい」

「苦しゅうないぞ」


 相手を見下すような素振りで、ツバキは言った。


 マチルダはお馴染みの黒いオーラを発生させながら、ツバキを睨みつける。


「貴様何者だ? どうやって魔王様に取り入った? 事情によっては、今ここで殺す」

「なんじゃ貴様は? 妾はこやつに直々に頼まれてここへ来たのじゃ。文句ならそこの魔神に言え」


 ツバキは負けじと赤いオーラを纏って反撃した。

 っていうか、ちょっと待て。

 俺に矛先を向けるな、俺に。


「魔神だと? 魔王様とお呼びしろ!」

「魔王ではないわ。貴様こそいつまで過去の存在に囚われておる。魔王は配合され、魔神となった。人格はどうあれ、もう魔王ではない」


 ツバキの言葉に、マチルダは意表を突かれたような表情をした。


「こやつは魔神じゃ。魔王と呼ぶことは妾が許さん。名が変わり、体が変わり、それでも忠誠を誓う者だけついてくるが良い。さあ、貴様はどうする?」


 なんだかツバキのやつ、イキイキしてるなあ。

 ドラゴンの時は、もっと厳かで重々しい感じだったのに。


 マチルダは縋るような目で俺を見た。

 後ろのロベリアも、珍しく不安そうな顔をしている。

 強気なこの二人がなにも言い返さないのは、きっと心のどこかで、ツバキが言ったことを分かっていたからだろう。


 忠誠を誓う主が、別の魔物になった。

 それはこの二人にとっても、初めての経験だったに違いない。

 すぐに受け入れられず、魔王として接し続けてしまった。

 なんとなく、その気持ちは分かる。


「ツバキさん、と言いましたか」


 ロベリアが一歩歩み出て言った。

 あの白いオーラは、出していなかった。


「あなたの言うことは、きっと正しいのでしょう。お姿が変わっても、わたくしの魔神様への忠義は変わりませんわ」

「ほお、いい心がけじゃ。ならば魔神ではなく、ドランと呼んでやるのじゃな。こやつの新しい名じゃ」

「ドラン様。ええ、分かりましたわ。マチルダはどうしますの」

「と、当然だ! 私の忠誠が揺らぐことなどない! 魔神ドラン様、改めてよろしくお願い致します!」


 マチルダが跪くが、ロベリアはそのままだった。

 彼女の意識は、俺ではなくツバキに向けられていた。


「ですがそれは良いとしても、わたくしはあなたの存在まで認めるわけではありませんわ。あなたは、ドラン様の何なのです」


 ここでついに、白いオーラが出た。

 いつもより一際勢いがある。


「恐いのう。ドランよ、言ってやれ」

「言うって、何をだ」

「決まっておろう。妾がおぬしの何か、じゃ」


 何って、何なんだお前は。

 まあこの二人の手前、滅多なことは言えない。

 曖昧なことを言って誤魔化してしまおう。


「ツバキは俺の、まあ、相談役だ」

「そう、愛人じゃ」

「なんだと!?」

「なんですって!?」


 なんだって!?


「ドラン様!! 本当なのですか!? 私という者がありながら!」

「わたくしがおりますのに、ドラン様……酷いですわ!」

「英雄色を好む、と言うじゃろう。大目に見てやるがよい」


 ツバキは楽しそうだった。

 こいつ、もしかして本当に楽しむためだけについてきたんじゃないだろうな?


「ま、まあツバキの冗談はさておき、二人とも仲良くしてやってくれ」

「いくらドラン様のご命令でも、嫌ですわ!」

「ただでさえロベリアだけでも邪魔なのです! ドラン様には私がいれば、それでよいではないですか!」

「あー、まあ、みんないると心強いだろ? なあ?」


 以降も二人の怒りは収まらず、この場はとりあえず解散ということになった。


 暴れ出さなくて良かった……。

 ツバキには後で、きつく言っておかないとな。

 悪い冗談はやめろ、って。



 ……冗談だよな?

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