奥さまは魔王女
奏 隼人
第1話 雨の中の美女
ヘッドライトの光だけでは分からない…
チラッと見ただけだから間違いかもしれないけど…雨も降ってるし…放っておく訳にはいかない…
僕は会社の帰りの小高い丘の道をUターンして引き返した…
田舎道の街灯に照らされていたのは降りしきる雨の粒と歩道から一歩中に入った芝生の上に倒れている女性の姿だった。
僕は急いで車から降りて彼女に駆け寄った。
「おーい!大丈夫ですか?」彼女からの返事は無かったが…温かい…確かに体温が感じられた…というか額に手を当てると…あっつ!
凄い熱!近くに病院は…ない!待てよ…病院や警察に連れて行っても「お前は誰だ?家族はいないのか?」という話になるだけだ…
僕はもう一度彼女の顔を見る…最近テレビも見ないけど「女優です!」ってくらいの超美人である…ハッキリとした顔立ちは日本人ではないのかな?それならいっそう難しい事に…
僕はとりあえず自分の部屋に連れて帰ってベッドに寝かせて看病を始めた…
氷枕やとりあえずの物を近くのドラッグストアで買い揃えるけど一つだけ困った事があった。着替えである。髪の毛やビショビショの服はタオルで少し拭いたけど汗をかいた服を脱がせてパジャマを着せてあげたい…どうしよう…そうだ!
僕はマンションの一階の管理人室に向かった。インターホンを鳴らすと初老の優しそうな女性がドアを開けてくれた。
「はいはい!どなた?」
「夜分遅くにすみません…」
「おや?仙石さんじゃない?どうしたの?」
何て言おうかな…?
「え、ええっと…その…付き合ってる彼女が熱を出してしまって…
管理人さん!一生のお願いです。彼女の服を着替えさせてあげてもらえませんか?」
管理人さんは一瞬ビックリした様子だったが、「そう…私にわざわざ頼みに来るっていう事はあなたが無理矢理連れ込んだという事でもなさそうだし、いいわよ…」と言って
彼女を着替えさせて汗まで拭いてくださった。
部屋の外で待っていた僕に管理人さんが「もう入ってもいいわよ!!」と声をかけてくださった。
「服も…下着までビショビショ!どうしてこんな事になったの?」
「あの…その…」
「分かるわよ!あなたね、ケンカしたんでしょ!
それでこの娘、ずっと雨の中であなたの帰りを待ってたんじゃないの?
ダメよ…もっと大事にしてあげないと…」
「そ、そうですね。はい…」
「う、うう…ん…」彼女に一瞬だけ意識が戻る…女性がうっすら目を開けるとすぐ側で二人の話声が聞こえてきた…
「管理人さん…すみません。これからは彼女は絶対にこんな事にならないように自分が守ります。ずっと大切にすると誓います!」
「そうしてあげなよ。服と下着は私が洗濯しておくから彼女が目を覚ましたら声をかけてね!」
その会話を朧げに聞いていた女性は故郷の自分の父親を思い出した…
「シルヴァ…君は絶対に僕が守る!いつまでも大切にすると誓うよ!」
疲れと熱が完全に取れていなかった彼女はまた眠りに落ちていった…
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