第40話 成金の邸宅
翌日、さっそく俺とジークヴァルトは馬車に乗り込みカルカロフ家へと向かっていた。
馬車は村とは反対方向へと進む。
「ルカ、昨日も言ったが情報を得ようと躍起になってはいけないよ。まずは普通にペイジとしての務めを果たすように。わかったね?」
「はい」
ジークヴァルトの言葉に頷いて、そのまま資料に目を通す。
令嬢二人は双子で、姉はジゼル妹はフィオナ。
歳は19で、結婚や婚約者の影はない。
ジークヴァルトが教えているのは経済学で、ジゼルは極めて優秀、フィオナはそこそこって感じか。
「あの、二人の性格とかってどんな感じですか?」
「ジゼルはいつも憂鬱で大人しいが、フィオナは楽観的で非常に明るい。まるで月と太陽のような性格だよ、双子でここまで対照的な性格だというのも興味深いことだね」
月と太陽、か。
俺はジークヴァルトの話を元にどんな人物なのか妄想しながら、ぼーっと窓からの風景を眺めた。
「ルカ、今度の能力判定検査のことだけれど、あれは君には必要ないから形だけ受けてもらって構わないよ」
「え?でも……」
「あれは、メリーに受けさせたいものであって君には必要ないからね。彼女だけに受けろと言っても、彼女はトワルのメンバーではないし 一応君の手伝いとしていてもらっているからね。君が一緒だと言っておけば、筋は通るだろう?」
はっはーん、俺はフェイクなんだな。
メリーの能力をはかりたいがために俺を同伴させようと。なるほどね。
さすがは性格が悪い。だが、俺と一緒だと言えばメリーもホイホイとついてくるのは確かにわかる。賢いと言えばいいのか、狡いと言えばいいのか。
「なぜ、それを僕に伝えたんですか?」
「君はこういう類の話が好きだろう?」
好きじゃねーよ!という叫びを飲み込む。
好きではないが、この類の事は俺の身の回りに多すぎる。みんな詮索しすぎなんじゃねーの。
あれやこれや人を騙すのが好きなのか?
まぁ、一番根本から嘘つきな俺が言うのもなんだけど。
「それと、このあいだの戦闘の後処理についてだが。クロエについては、教会に入った物盗りに襲われて死亡したということになっているから。……幾度も刺されて、眉間に一発銃弾を食らったってね」
あ、ヤバイ。
俺が拳銃でクロエを殺したのがバレてる。
若干ひやっとしたが、あれに関しては何の後悔もなければ罪悪感も湧かない。
なぜだろう。
「あの拳銃、一応まだ所有してますよ。クリスチャンさんに返した方が良かったですか?」
「いや、結構だよ。クリスチャンが渡したものなら私から言うことは何もない。ただ、随分と殺しに抵抗がないんだね。あんな眉間のど真ん中に一発撃ち込めるだなんて……アルバートにでも習っていたのかな?」
「父がそんなことを教える人に思えますか?」
「いや、全く。彼は頭もスッカラカンだが、身体能力もダメダメだったからね。唯一の救いはあの容姿と、あとは家族に対する底なしの愛情だけだよ。未だ、毎日私宛にも手紙が届くのをどうにかしてくれないかな」
ジークヴァルトの言う手紙は、俺も何回か読ませてもらったことがある。内容はいつも、俺の体調はどうか や 俺に友達はできたか とか 俺が寂しがってないかなどなど自身の息子を心配しているようで見てられない。
俺に対しても毎回手紙が届いていて、寂しくなったらいつでも帰って来いと書いてある。
父親の愛情か。
勿論、ロゼットやマリアンヌからも手紙が届く。内容は、俺への心配と励まし それから近況報告。近況報告と言っても、森を散策してたら珍しい花が見つかっただの雛が巣立ちしただのとメルヘンチックな内容だが 文面から察するにケヴィン達からの悪意ある接触はなさそうだ。
「そういえば、先生って家族とかいらっしゃらないんですか?そう言う話、全く聞いたことないですけど」
「……いると思うかい?」
「いなさそうですね」
ジークヴァルトのねとっとした目線を受けて、さっさとこの話題を終わらせる。
なんだよ、少しぐらい話してくれたっていいだろうが。秘密主義者めっ‼︎
そんなこんな喋っていると、カルカロフ家の邸宅に着いた。
さすが、貿易商の豪邸だけあって煌びやかな装飾や骨董品が数多く飾られている。
噴水なんて豪華な彫刻がこれでもかと刻まれているし、庭にはこれまたお高そうな大きな彫刻がいくつも飾ってある。
「凄いですね、先生。あちこちに高そうなものがズラリと……」
「全くもってセンスがない。所詮は成金の家だからね、こうして高価なものも人目につくところに並べるしか能がないんだよ」
きっついなぁ……。
ジークヴァルトはあまりこう言ったものには興味がないようで、見向きもせずにさっさと邸宅へと入って行く。俺もそのあとに続いた。
邸宅内も赤いカーペットと白い壁で統一されていて、シャンデリアも豪華でピカピカと輝いている。うーん、ここら辺を見ていると確かに成金という表現が当てはまる気もするが……。
まぁ、金持ってるだけいいじゃん!
結局、成金だろうが何だろうが裕福なんだったらそれでいい。俺なんて、貴族とはいえ貧乏なんだから名前だけじゃどうにもならないことをよく知っている。
あちこちをキョロキョロと見ながらやってきたのは、例のこの家の家長であるルシアンの部屋だ。
中に入ると、また色々な装飾品で溢れかえった飾り棚の奥にスーツ姿の中年の男が佇んでいた。こちらに気づくとニッコリと人懐っこい笑みを浮かべる。
「やあやあ、先生!お待ちしておりましたよ!今日もはるばる来ていただきありがとうございます!」
「これはこれは、ルシアン様」
恭しく頭を下げるジークヴァルト。
お前、さっきまで成金だ何だと悪口言ってたくせに白々しい……。
「おや、その子は例の先生のお宅に住まわれている子ですかな」
「ええ、まだ幼いですが大人しいですし物分かりもいいので彼女たちの相手に良いかと……ほら、挨拶を」
ジークヴァルトに背を押され、俺は一歩前に出る。
「初めまして、ルシアン様。ルカと申します。ジゼル様とフィオナ様にお仕えできること、心より誇りに思います。未熟な身ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「なるほど、大人びた賢そうな子ですね。さすがは先生の教えを受けているだけある。そして、噂通り美しい顔立ちをしている……はぁ、一応これでも貿易商ですから各地を飛び回ったが、こんなに綺麗な子どもを見たことがありませんよ」
ルシアンは俺の顔を見るなり、ぼーっとした表情を浮かべた。この部屋のどの美しく高価な飾りよりも煌びやかで麗しいこの俺の美貌に、彼もまた酔っているのだろう。
「ルシアン様、先日のお話の通り 彼を私がこの屋敷にいる間 二人のペイジとして仕わせることをお許し願えますか」
「あぁ、勿論ですとも!きっと娘達も喜びますよ」
ルシアンの許可を得たジークヴァルトは、颯爽とその部屋を出て行く。俺もルシアンに一礼してからその後に続いた。
なるほど、確かにルシアンはチョロそうだな。
ジークヴァルトや俺の話にうまく乗せれば、すんなりと老虎の情報が聞き出せそうだ。
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