第25話 トワルのメンバー
「君、そこの椅子に座りなさい」
突っ立っている俺に向かって、近くの椅子に座るように指示するボスと呼ばれている男。
俺は大人しく、言われた通りに椅子に腰掛けた。ただ、この椅子の配置はわざとなのかは知らないが、俺や他の五人が同一円周上に並ぶようになっており、ジロジロと舐め回すように見られている。
「さて、まずは自己紹介をしようか。私は、エドワール。トワルの仕切り役をしている者だ。トワルへようこそ、可愛らしい坊や」
彼は渋い声でそう告げる。
優しい口調だが、彼の金色の瞳は鷹のようにギラギラと光っていた。
エドワールの自己紹介が終わると、例の巨乳お色気全開美女がおもむろに立ち上がり、俺の方へと近づいて来た。
「あら、自己紹介?んふふ、私もしようかしら。さぁ、僕ちゃん、その可愛らしいお顔をもっとよぉく見せてちょ〜だい?」
近い!ちょ、た、たんま!
俺の顔の輪郭をツゥっと指先でなぞりながら、怪しげに笑うの彼女にドキドキが止まらん!
「私はアンジェリーナ。近くでお店を経営しているの、今度寄ってみてね。貴方みたいな綺麗な子には特別サービスしちゃうわ」
「へ、あ、は、はぃ……」
特別サービスってどんな店だよ!
俺の頭の中では、アンジェリーナがアッハーンウッフーンしてるお店で働いているとしか想像できない。
それから、飽き足らない様子で俺の顔を見つめ続ける彼女に俺の我慢が限界まできそうな時、側から意見が飛ぶ。
「未成年の健全な子供に対してそのような振る舞いは、私としては許せませんね」
「あ〜ら、さっすがは裁判官さん。頭の硬さはピカイチねぇ?」
「そちらの貞操観念の緩さには負けるわ」
バチバチと再び女性二人の間で火花が散る。
相手の女は、ロレンツァだったか。
露出度の高いアンジェリーナとは打って変わり、肌をダークカラーのフードやマントやらでしっかりと隠しているロレンツァ。ただ、あまりにもぴっちりとしたボディーラインが露わな服のために余計にエロい気もしなくはない。
「私は、ロレンツァ。裁判官よ。そこの変態に何かされそうな時には私に相談しなさい。すぐに法のもとで裁くわ」
「誰が変態ですってぇ?」
「はははっ、”法のもとで"ねぇ」
「……何か?」
憤慨するアンジェリーナの隣で、ロレンツァの発言に首を突っ込んだのはジークヴァルトがクリスチャンと呼ぶ男だ。
「いやいや、君の意見はごもっともだが、トワルの人間が法などに固執していちゃ敵わないからねぇ。まぁ、君は法を違反した者を処分することの方が多いからわかるけれど。それでは解決できない問題もあることを、少しは理解しておいた方がいいんじゃないかなぁ?」
「法的に違反していないものが裁きを受ける必要はないわ」
「さぁ?どうかな?」
半笑いでロレンツァの意見をのらりくらりと聞き流して、楽しげにワインを飲む男。ハンサムな顔だが何処と無く危なげな感じがするのは、スーツの胸元で、金の蜘蛛のブローチがピカピカと光っているからか?悪趣味な奴だ。
「あぁ、そうだ自己紹介か。俺はクリスチャン。神聖で綺麗な名前だろう?まぁ、ここはひとつよろしく頼むよ、ルカ」
「はい、よろしくお願いします」
俺の名前を遠慮なく呼ぶと、また何が楽しいのかニヤニヤとしながらワインを楽しむクリスチャン。
ジークヴァルトはこの一連の流れを見ながら、それはそれは興味なさげに酒をちびちび飲んでいる。お前、一応は保護者だろうが。
もう、こいつはあてにしない方がいいな。
「えっと、僕はルカといいます。ご存知だとは思いますが、先生のお屋敷でお世話になっています。まだまだ未熟な身ですが、よろしくお願いします」
俺も軽い挨拶をしておく。
それが終わると、ロレンツァが目線をジークヴァルトに移した。
「ジーク、やはり私の言う通りだったでしょう」
「まだ確信はないけれどね」
「負け惜しみかしら。事実、ここに連れてきたと言うことは あの手紙通りに事は起こらなかったという訳でしょう?」
ロレンツァの言葉にジークヴァルトは何の反応もせず、再び酒を飲む。
二人が言っていることって、あれか。午前中に読んだ、あの手紙。
確かロレンツァが手紙通りに俺が振る舞わなかったら、手紙の信頼性は低いと言ってくれたんだっけ。ってことは、俺の命の恩人じゃないか。
「ジーク君、ロレンツァ君、そこまでで言い合いはやめたまえ。本人の前だよ」
「そぉよ、この子がかわいそうじゃないの。なぁんにも分かっていないって顔をして……ねぇ、ボス?」
「ボスならともかく、あなたに言われる筋合いはないわ」
「ちゃんと説明してやったらどうだ、ジーク。この子に、今からのことをさ」
「全く、面倒極まりないね。これだから、子供を預かるのは嫌だったんだよ」
ボスに話を止められた二人は、少々不機嫌ながらも彼の意向に従う。
そして、エドワールは俺に向き合った。
急な重い雰囲気に、ゾクっとする。
「さて、ルカ君。君がここに来た意味を教えようか。ここはトワルのアジト、つまりは中心部だ。トワルの存在は公にはされていない、つまりは秘密裏に動いているわけだが……そのアジトに招かれた、それが何を示しているか君にはわかるかな」
「……ここのことを黙っていろ、ということですか?」
俺の回答に、ジークヴァルトを除いた四人は笑う。ジークヴァルトは無表情で俺を見つめていた。
「可愛らしい答えをどうもありがとう、ボク。けれど残念ながらそんな生易しい事じゃないんだよ。何故なら、口のついている生き物というのは秘密を抱えるとバラしてしまうリスクは必ず付いて回る。どんな人格であったとしてもね。しかしそれを四六時中監視してはおけない、となるとどうするのが賢いか、君にはわかるかい?」
「……僕を殺すのですか?」
口に出した答えは、あまりに恐ろしいが……でもこれしかないだろ?
てことはなんだ、俺を殺すのか?
いや、ここまで来て殺すのか?
ジークヴァルトの無表情な顔が妙に不気味で気持ち悪い。おい、お前その顔やめろよな!
めちゃめちゃこぇーよ!
「いやぁ、感心感心。素晴らしいね、この歳でそこまで賢いなんて。よく物事をわかっているじゃないか」
やばい、嘘だろ!
ここでクライマックスかよ!
エドワールのにこやかな笑顔が、俺にとっては悪魔のように見えた。
相手はジークヴァルトを入れれば六人。
六人を一人で倒せるか?
いや、倒さなくても逃げ切れればいいのか?
だが、確か幻覚が操れる者もいるはず。
逃げ切れないだろ!
どうにか逃亡の経路を見つけようと思考回路を使っていると、とうとうジークヴァルトが口を開いた。
「ルカ君、そう構えなくとも我々は君を殺そうだなんて考えていない。安心するといいよ」
彼の言葉を理解したエドワールは、俺が恐れていることが分かったようで少し笑って言い直した。
「おやおや、そこまで怖がらせてしまったかな。すまないね。ジーク君のいう通り、私を含めここにいる者で君に危害を加えようと思っているものはいない。手紙が来た当初は君の処分に困ったけれど、君は単なる被害者であると判断したからには君に手出しをする必要性は消えたからね。つまり、君に下される処分は一つだ」
そこまで言うと、エドワールはニヤッと口を歪める。
「君をトワルの一員として迎え入れようと思うんだよ」
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