第14話 銀髪ロン毛は胡散臭い

ニナだけでなく屋敷の主人まで直立不動で登場したことに内心ツッコミを入れつつ、俺は彼の前へ進み出た。



「はじめまして、ジークヴァルト様。僕は……」



「あぁ、君のことはケヴィン君からよく聞いているよ」



はっはーん、やっぱり黒幕は兄弟だったか。

ケヴィンといえば、アルバートの二人目の兄貴にあたる人物だ。そのケヴィンを君付けて呼ぶということは、アルバートやケヴィンよりも歳は上なのか。


ジークヴァルトは俺の自己紹介を中断させると、書斎中央に配置された椅子に座るよう指示してきた。俺が座ると、彼もまた自身の椅子に座る。



「君をこの屋敷に迎えるにあたって、一つ君に覚えておいて欲しいことがある。このことはしっかり覚えておくように」



少々気怠げな口調で、ジークヴァルトは語る。



「私は完璧なモノしかこの屋敷には入れない主義でね、君は聞いていた通り素晴らしく美しいが……その格好はいただけないね」



ジークヴァルトの目線は、俺のローブへと注がれていた。

いただけないね、と言われても……俺だってこんな暑くて重いのを着たくはない。すぐにローブを脱ぎたい衝動に駆られるが、ここはストップだ。


よく考えてみろ。

五歳児が肉親と離れ、遠い見知らぬ男の屋敷へとやってくる。そこで父親から渡された服を脱げと言われ、ホイホイと脱ぐ子供がいるだろうか?いや、いない。

ここは、子供らしく振舞うべきだ。



「これは、父親からもらったモノです。そう簡単には手放せません。思い出の品なんです」



いかにも寂しげにぎゅっと両手で握りしめて彼を見上げると 、彼は小さくため息をついた。

お前、これが本物の五歳児だったらここらで泣き出してるぞ。



「そのローブは、正直言って良いものとは言い難い。君の意見も尊重したいが、それは今すぐ私の前から取り去ってもらいたいね。私は完璧でないものを見ると蕁麻疹ができるから……あぁ、痒い痒い……」



わー、ドブネズミを見るような目。

容赦ない言葉を投げかけると、彼は大袈裟に手首を搔き始める。完璧じゃないもの見ると蕁麻疹とか、マジか。



ここで、この屋敷の薄気味悪さの正体がわかった。

この屋敷には、完璧なものしか置いていない。


全てのバラが見事に咲き、絵画は寸分狂わず平行に並べられ、屋敷内の時計は皆 同じ瞬間に時を刻んでいる。


全て、全てが完璧。

だからこそ、気持ち悪い。



ジークヴァルトという人間が一体どんなやつかは未だ分からないが、とにかく変人ということはわかる。銀髪ロン毛で長身で金持ちそうなのは、どう考えても胡散臭い。



「さて、君には個室を用意してあるからニナに連れて行ってもらいなさい。そこに置いてある服に着替えたら、共に夕食を取ろう。あぁ、君ニナの自己紹介は聞いただろう?」



「はい、ここのメイドさんですよね」



「そうだよ、私が創り上げたんだ」



……は?

耳を疑うような発言に思わず顔を歪めると、彼はニナを側へ呼びつけた。



「聞いてないかい?彼女は_____」



突然、ガバッとニナのメイド服に手を入れるジークヴァルト。


おいおい、何なんだよ。

突然の公開プレイにドキドキが止まらない。

こんな子供の前でメイドとイチャコラすんじゃねぇよ。教育上よろしくないだろ。

やって来て早々メイドと主人とのにゃんにゃんを見させられて、37歳の健全な日本男児は巨乳メイドの乱れる姿を瞬時に期待した。


しかし、そんな淡い期待は脆く崩される。

急にニナの瞳が濁ったかと思うと、全身の力を脱力したかのようにその場にへたり込んでしまった。



「え、ちょっ、え……」



「焦らなくてもいい、彼女の主電源を切っただけだよ。ほら、こっちに来て見てごらん」



ジークヴァルトに言われるがまま、側へ行きニナの横腹を覗き込むと 確かにそこには滑らかな肌に似合わないスイッチらしきものが付いていた。



「彼女は、私が創った人造メイドなんだ。素晴らしいだろう?」



人造メイド……つまり、ニナは機械なのか?

だが、スイッチ以外は立派な人間そのものだ。


俺がぽかんとニナを見つめていると、ジークヴァルトはそれはそれは嬉しそうにニナを膝に乗せて喋り出す。



「見たまえ、このふくらはぎから踵にかけてのラインの美しさ。滑らかな曲線、そして生活感を感じさせない踵。この頬の膨らみも、まつげの生え方もある法則に則って決めているんだ。ここまで美しいメイド、他にはいない」



早口にまくしたてる彼は、興奮した様子であちこちを紹介してくれる。

どんな顔をして聞いていればいいのか分からないが、とりあえず笑顔を見せておくが内心はなかなかにドン引きしている。


こいつマジでやばい奴だ。


また面倒なことになりそうだと頭を悩ませながら、哀れな人造メイドを見つめることしかできなかった。

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