第2話「蒼柳聖という少女(前編)」
この物語はフィクションです。
実在するあらゆる全てとは一切関係がありません。
このような事実は一切存在せず。
例え、事実のように書かれていようと、全ては筆者の妄想の産物に過ぎません。
そびえたつタワーホール
私はその駅前に立っていた。
周囲はいつも通りとても賑やか。
うるさすぎるほどに。
だってここは地方都市。
この*県においては唯一の都会。
他はほとんど田舎。
近隣に少しは開けた土地がいくつかはあるけれど、それ以外は完全なド田舎。
車が無ければろくに買い物もいけない地が広がっている。
だから、この近辺に住んでいて、ここを使わない人はほとんどいない。
特に若者は。
アニメに漫画、欲しいものがあるならば近くの本屋が必要だし、服屋だってス○バだってマ○クだってこういった開けた地にしか存在しない。
あっても車で数分かかる遠くのスーパーの中に、似たような店舗があるかどうか。
まぁ、マ○クみたいなドムド○バーガーとかはあるかもしれないけど、ス○バは絶対に無い。
だから必ずやってくる。
若者ならば絶対に。
現にここはこんなにも若者にあふれている。
それに今日は日曜日。
そして時間もお昼時。
天気も絶好調。
こんなにも晴れているというのにここに出てこないなんて絶対にありえない。
私は余りの騒がしさに少しだけ不快な顔をする。
もう慣れたはずなのに、それでもこれだけの人の中に入ると眩暈を起こしそうなほどに苦しくなる。
なぜかって?
だって私は――心が読めるから。
騒がしいといっても音としては普通の町の中と変わらない。
私が言っている騒がしさとは――心の声の話だ。
私には、人々の心の声が聞こえる。
これは生まれた時からの話。
物心ついてからではない。
生まれてすぐに気付いたのだ。
普通は三歳頃に、それまでの記憶を忘却してしまうものらしい。
そして一人としての人格を宿すのだ。
これを幼児期健忘と言うらしい。
だけど、私にはそれがなかった。
そのせいなのか知らないけれど、この不思議な能力も無くならなかった。
私は生まれたすぐの時から記憶を覚えている。
この世に生を受けたその時から。
そう、母親のお腹の中にいた時から。
私は全てを聞いていたのだ。
両親の優しい愛の言葉も、周囲のおぞましい妬みや憎悪の感情も、そして、悲惨で悲しい個人の心の叫びも。
大体、半径数百メートルくらいの範囲内であれば全て聞こえる。
――聞こえてしまう。
この能力は便利なものなんかじゃない。
嫌でも耳に入ってしまう、ある種の呪いなのだ。
私には、嫌でも、周囲の心の声が聞こえてしまう。
そういった病気を持っているようなものなのだ。
心の声が聞こえる。
想いが感じとれる。
それは、意思と思考の洪水。
音で例えるならば、轟音で埋め尽くされた終わらない拷問。
だから、私は普段は人のいない空間にいる事を好む。
半径五百メートル以内に人を入れないように厳重に命じて、私だけの部屋にこもるのだ。
そんな事できるのかって?
できる。
私は特別。
特別な能力を持ったがゆえに、それが認められている。
宗教法人。
職場に人間が二十人いたならば、最低でも一人は信者がいるされているほどの大手宗教団体だ。
私はそこの姫巫女。
信者総出で応援している政党は連立与党だし、色んな業界の成功者だって輩出している。
だから感謝の謝礼金は当たり前のように寄付される。
そこからどんな流れで個人にお金が入ってくるのか、仕組みは今でもあまり良くはわかってないが。
つまり、私はお金持ちなのだ。
だから、それが可能となる。
私の住んでいる屋敷。
広大な土地の中央にある屋敷。
その離れ。
誰も寄り付かない大自然に囲まれた場所に、私が唯一心を休める事のできる部屋がある。
そこだけが、唯一私が静かに過ごせる場所。
けれど私は今、ここにいる。
騒々しい人の群れの中にいる。
どうして?
漫画や服を買いに来た?
違う。
ス○バやマ○クでコーヒーを飲みに?
それも違う。
お仕事だ。
私の父親の興した団体は、やはり敵も多い。
他の宗教団体のやっかみを受けて妨害されたり、誹謗中傷やマイナスイメージのある話をネットでばらまかれたり、噂にされたり。
業界の成功者だって、ただの宣伝塔なのではないか、と酷い言われようだ。
彼らが成功したのは彼らの努力と運のおかげなのに。
私は、ちょっとその下調べとして、色々わかった事をお告げしただけに過ぎない。
けれど、非科学的なものを世の中は受け入れない。
私だって、この能力を公にはしたくない。
そりゃそうだ。
アメリカの変な地下基地で延々と実験動物になんかなりたくもない。
だから、これは一部だけが知る事の許された秘密。
私は、この国の切り札なのだ。
だから、色々なしがらみで警察に関わる仕事も請け負っている。
迷宮入りした難事件の解決とか。
いつまでも口を割らない被疑者の真実を暴いたり。
ただ、今回のはお仕事といっても依頼された訳ではない。
私の義憤で、私個人の意思で行っている探偵紛いの……偽善行為だ。
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