立花司の話②
立花司が雪に手を入れて指輪を探すが、雪積もるその日に一つの指輪を探すのは、ほぼ不可能だとういうことをわかっていた。
探し主である彼が雪をかけ分けているのを見つめながら、その中に秘める思いを覗いてみた。
その彼の思いはどうやら複雑で、どうやら先ほど話しかけた女子校生と繋がりがあるのだろうと感づいた。
「他にその指輪に特徴はあるのかい?」
立花司の言葉に彼は依然として探しながら何かを考えるようにすると、思い出したように口を開いた。
「指輪の内側にK・Mの文字が掘られています」
「なるほど」
彼の言葉に大きく息を吐き出すと、フードのポケットに入った箱の感触を確かめて心の中で彼女である川瀬恵のことを思い出して呟いた。
「流石に恵に怒られるかな…」
上田俊は雪の中から指輪を探す振りをしながら、横で探す彼に悟られないようにポケットの中から箱を出すと、その中にしまわれていた金色の指輪を取り出した。
「ねぇ、君、もしかして探している指輪はこれじゃないかい?」
そう言って上田俊が差し出した光り輝く指輪を手に受け取った上田俊は確かめるようにそれをつまんで、澱んだ雲にかざすようにした。
「やっと見つけた」
一人呟いたその言葉の続きに頷いた彼は、ハンカチを取り出し指輪を自らのポケットにしまうと腰を折って礼の言葉を誰かに代わって口にした。
その姿に、立花司は小さな笑みを浮かべると踵を返してその場から立ち去ってしまいそうな彼に向けて言った。
「そういえば、君の問題は日暮駅に行けば解決すると思うよ」
立花司から放たれた言葉に上田俊は意味を悟ることができずに首を傾けた。
「それはどういう」
「自分の気持ちに正直になればいいんだ。気取らず、焦らず。それだけでいいって、君と同じくらいの子がいていたから多分間違いないよ」
「はぁ…」
小さな溜息と共に困ったような表情を浮かべた彼に立花司は反対方向へと雪に足跡をつけながら再び道を走って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます