346 勇者


 俺は教皇様に用意してもらった報告書を読んでいた。


 Sランクなどの冒険者の失踪報告だ。


 冒険者の失踪は俺にも他人事ではない。今は教会に潜んでるし、たまに外に出る時も多少は変装している。まあ俺の外見を知ってる奴は少ないのでいらないっちゃいらないんだけど。俺と戦った魔族が街にいたりなんかしたら大変だからね。


 そして他の冒険者が失踪したのは大概が指名依頼だ。


 指名依頼はお金させ積めば誰にでも出せる。受けるかどうかは本人次第だが、Sランク相当となると他の冒険者には任せられないので基本は受けることになる。

 そして受けたSランクが戻ってこないのだ。


 ギルドはSランクへの指名依頼を禁止するか悩んでいるらしいが、それはそれで困ったことになる。

 現在世界では魔物が増えており、特に魔の森付近では強力な魔物も溢れ出しているそうだ。多分食料とか縄張り争いなんだろうけど。


 最近はSランクだけでなくAランクにまで対象が広がっているようで、依頼の内容に不備がないか綿密にチェックが入っているようだが、依頼自体に不審な点はないという。実際に対象の魔物はいるし、事件は起こっている。

 Aランクが失踪した後、他の冒険者が依頼に向かって討伐したりしているそうだ。


 魔族が高ランク冒険者を狙う目的は?


 明らかだ。人間の戦力を削っているのだ。

 戦闘態勢にある高ランク冒険者を正面から撃破するのは難しい。だけど、依頼の最中となると別だ。移動時に常に気を張ってる訳でもなし、夜には野営もするのだ。狙う機会はたくさんある。


 俺としては魔族がこういった人間の生活習慣や冒険者に関する情報をもっている方が脅威に思える。人を知り、己をしれば百戦危うからずというが、地味だが下手に魔物を消しかけるよりは有効な打撃になっている。




 さて、勇者召喚だが、大陸の中央ということでザパンニ王国が行うことになっている。最初は女神様の神託なのでイングリッド教国で行うことになっていたらしいが、魔族が襲撃してきたことで変更になったらしい。

 現在も高レベルの神官はザパンニ王国に出向しているらしい。


 勇者が最初から俺TWEEEEをしてくれれば少なくともザパンニ王国の守りは厚くなる。いやまあある程度実力がつけば、最前線のこの国にくるんだろうけど。


 勇者召喚に関しては物申したい気持ちもある。


 俺を召喚した爺さんは俺が最初の召喚者でこれからも召喚する予定はないといっていた。気がする。

 だけど、今回女神様から勇者召喚の神託が出た。爺さんはあまりこの世界のバランスに興味がない風だったのでおそらく爺さんとは別の神だ。

 爺さんの名前は知らないが、この世界の女神様の名前はイングリッド。どう見ても女性名だ。


 とすると俺とは別口の召喚となり、俺とは違って最初から力を与えられている可能性もある。魔王特攻とかついてると戦いやすいかもしれない。聖剣とか与えられている可能性もあるし、強力な魔法が使える可能性もある。


 俺は魔力も多いし、強い魔法も使える。だけど基本自分のイメージで行っているので、この世界での一般的な魔法とは違う。


 勇者が他の世界で魔物との戦いに慣れていると仮定し、女神様が力を与えたとすると俺よりも魔物との戦いが有利に運べる可能性もある。俺はただの魔力ばかだからな。レベルだけ高くても技術を上げてない俺の弱い点だ。風魔法は結構自信があるんだけどな。基本風魔法だけでなんとかしてきたし。



 まあ召喚されてもいない勇者のことを気にしてても仕方がない。俺は俺でやれることをやっておかないと。

 まだこの世界に来て数年、美人の嫁と従者も出来、これからというところなのだ。世界が平和ならのんびり旅をして新たな驚きに満ちた楽しい出会いに期待したい。



 そんなある日、情報が入ってきた。勇者召喚に成功したそうだ。

 魔族の妨害らしきものもあったらしいが、問題なく成功したとのこと。まだ第一報なので詳しい内容は伝わってないが、召喚に成功しさえすれば王城で守りを固めてさえいれば大丈夫だ。


 ちょっと安心した。


 そして連続で報告が上がってきて、勇者は最初から強力なスキルを使えるということだ。これも安心材料だね。

 まあこの世界での強力なスキルだからレベルはそれほど期待できないけど、戦い慣れていればそれも覆すのは可能だ。俺みたいに風魔法でばかり戦うのではなく、複数の属性を使い分ければそれだけでも戦いは有利になる。


 続報が上がってきた。剣の腕も騎士団長以上らしい。模擬戦を行ったが相手にならなかったとか。もしかして万能型の勇者か?それなら期待できる。剣も魔法も優秀な魔族との戦いにおいてどちらかの偏っているとそこを突かれて負ける可能性があるからね。


 勇者には訓練が不要ということもあり、この世界の常識や魔族に関する情報などを学ばせた後にこの国に派遣されるという。

 騎士団の準備ほど長くは掛からないので、先にこちらの戦場に参加することになる。


 俺の分も魔族を倒してくると良いなぁ。



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