277 ゴブリンジェネラルキラー


「シネ!」


 心臓を狙った一撃に対して、結界を3重に重ねた上で、体も回避行動をとる。


 結界が破られ、また破られ、また破られる。


 張った結界が全部破られて俺に剣が迫って来るが、なんとか体を射線から外すのには成功した。

 そのままバックステップで距離を空ける。


「ちょこまかと。これでもくらえ!」


 男が振りかぶって剣を振り下ろす。とても届く距離じゃないんだが、男が確信を持って振り下ろしてるのだ、何かあるのだろう。

 俺は再度結界を張って体を射線から退けるように動く。


 結界はあっさりと破られ、俺の肩を切り裂く。どうやら俺の結界は時間稼ぎにもならないらしい。


 だけど、男は剣を振り切っており、隙だらけだ。風の刃で両腕をばしゅっと、、、な、結界?!


 男を囲むように結界の歪みが見える。


 なんてこった。速度重視で放ったとはいえ、俺の風の刃を弾くなんて。

 それに男も体勢を立て直してしまった。


 にやっ


 男に笑われたような気がして、俺はとっさに風の刃を再び放つ。早く倒して自分の腕を治療しないと後遺症が残る可能性がある。それほど深く切られている。


 ふと、俺は視線を男からその後ろに目を向けた。

 別に何かいたわけではない。男の注意を引ければ良いと思っただけだ。


 しかし、男は過敏に反応し、後ろを振り返った。まるで背後から敵が来るのが当たり前のような反応だ。


 注意がそれたのを見計らって剣で足を切りつけた。これで剣も防がれるようなら逃げるしかない。


 しかしそうはならなくて、足は普通に切り裂けた。勢い余って両足を切り裂いたが、まあ生きてれば良いか。



 男の後ろに何もいないのを確認して男から剣を取り上げる。

 男にそれほど魔力を感じなかったから、俺の結界を切り裂いたのはこの剣が原因だろう。


<鑑定>


 久しぶりに使うな、このスキル。


 どうやらこの剣はゴブリンジェネラルキラーという名前らしい。随分とニッチな効果だ。効果はゴブリンジェネラルを倒せば倒すほどに魔法への抵抗力が上がり、攻撃力も増すという効果らしい。


 なるほど。この男がゴブリンジェネラル倒しまくったために俺たちは見つけられなかったのか。


 しかし、この剣、効果が微妙だな。効果が上がる条件がゴブリンジェネラルだけな上に、途中で他の生物を切ると1時間で効果がリセットされる仕組みだ。つまり、この剣の効果はあと1時間もすればただの剣に成り下がる。


 問題はこの剣をこいつがどうやって手に入れて、どうやってその効果を知ったのかだ。


 <鑑定>のレベルが高ければ問題ないが、俺の鑑定レベルは結構高い。この世界の人間、いや獣人がそんな高レベルな<鑑定>を持ってるとは思えない。

 つまり、効果がどこかに書いてあったと考えるのが妥当だ。


 どこからからか盗んできたのか?


 俺の結界を切り裂ける攻撃力と、魔法を弾く結界を考えると、1時間だけでもほぼ無敵だ。1000人相手に喧嘩売っても勝てるんじゃないだろうか。



「さて、なんでこんな物を持ってたのか、教えてもらおうか?」


 倒れ込んでいる男に問いかけるが、返事が返ってこない。

 男を蹴り上げると、ごろっと転がり、口からは血を流していた。まさか死んでる?足を切り裂いたけど、すぐに死ぬような怪我じゃなかったはずだ。


 男の呼吸を確かめたが、確かに息をしていない。それになんか生気が感じられない。いや、死んでるから当然なんだけど、死んですぐってのはまだ生気が感じられるものだ。


 俺は慌てて剣を鑑定し直す。


 ああ、そうか。他の生物を切ると1時間で効果が切れるが、その1時間の動力は使用者の生命力だ。つまり、俺との戦闘で腕を切り裂いた後は、こいつの生命力で動いていたことになる。

 普通に剣を振っていたなら1時間耐えれたんだろうけど、俺相手に強力な技を出してきた。それが限界を早めたんだろう。


 まあ死んでしまったのは仕方がない。手下と思われる二人を尋問しようか。


 振り返ると、二人が倒れているが、起き上がって来る様子がない。いや、両手を切り飛ばしてるから体を支えれないんだろうけど、横向きにもならないのはおかしい。


 ハムスター顔の男を蹴飛ばすと、口から紫色の液体がこぼれていた。毒かな?毒だとしたらこいつらはプロの集団か。何かの目的でこの剣を強化して誰か、または何かを殺そうとしていた、という感じだろうか。

 正規の騎士がこんなことするとは思えないし、裏の連中だろうか。


 ならこいつらが死んだのは隠しておかないと面倒なことになるな。燃え尽きてくれ。


 俺はなれない<火魔法>で高温の炎をだし、3人の体を焼く。骨も残らないようにこんがりと焼き上げ、地面が焦げた跡だけが残った。


 ふむ。この件は専門家に調べてもらった方がいいな。<鑑定>では基本的なことはわかるけど、ちゃんとした研究機関ならもっと詳しくわかるだろうし、どこから盗まれたものかもわかるだろうしね。


 <インベントリ>に収納し、ダンジョンを後にする。

 ゴブリンジェネラルの依頼が達成できないのはちょっと悔しいが、この剣を国に届ければ報奨金がもらえそうな気がしている。

 ニッチな強化方法だったが、条件をクリアできれば強力な剣には違いないからね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る