275 カンカルー
ゴブリンジェネラルが出ないな。
さっきから8層をうろついているのだが、ゴブリンジェネラルが出てこない。狩られた後か?
この辺の階層から出てもおかしくないはずだが。まあゴブリンは10層まで出るから上の階層をうろついてみるか。
でねぇ。
ゴブリン自体は出てくるし、オークも出る。他の魔物も出るのだがジェネラルが出てこない。
今回は運が悪いのか間が悪いのか。何日もかけるのもバカらしいし、カンカルーを探すか。
マップを作った時にカンカルーらしき魔物は見なかったので、どこか特定の場所に生息するのだろう。地図で怪しい場所は13階の草原だ。
この階層は一面草原で時たま気が生えている程度の場所だ。小動物が多く、そのほとんどが魔物化している。動物と魔物の違いなんて分からないが、目が真っ赤だしそういうことにしておこうと思う。
中央付近まできて、まずはどっちの方向を探索するか考えている時に、それ、はいた。俺たちから見て右から何かが跳ねてくる。
大きさは3メートルほどだろうか。魔物だろうから剣を抜いて構えるが、近づいてくるに連れて、それが目的の魔物である事を確信した。まんまカンガルーなのだ。ネズミみたいな顔をして腹に袋がついている。両足で飛び跳ね、前足は短い。
結構な速度で近づいてくるため、カンカルーだと気付いてから倒し方を考えている間に、俺たちを飛び越えて反対側に走っていってしまった。
「あれだよな?カンカルー?」
「ええ、恐らく。ですが、あのジャンプ力は、、、」
オーストラリアのカンガルーがどれだけジャンプできるのかは知らないが、カンカルーは10メートル近くジャンプした。ギリギリ位で飛び越えていたら剣で足を切り落としたんだけど、10メートル上空まで剣は届かない。
「ジン様、どうしますか?追いかけますか?」
「うーん、あの速度に追いつくの無理だが、、、一応あの方向にいる事は確かだからな。今度見つけたら速攻で首を切り落とそう。魔法で片付けるから見つけるのに専念してくれ」
ダンジョン内では魔力感知も精度が落ちるからな。あれだけ動物に近い魔物なら引っかからない可能性が高い。魔物だよな?
俺たちはカンカルーが走り去った方向に向かって歩き出す。どうせ追いつけないんだ、急ぐ必要はない。
何にもない草原をゆっくりと歩いていく。歩く。歩く。
ふわぁあぁ
眠くなってきた。
「クレア、マリア、ちょっと休憩、、、」
「ジン様!あれを!」
前方には土煙が立ち込め、その軌跡がこちらに向かっている。
よく見ると、その最先頭をカンカルーが走り、後ろを百足のようなものが追っている。百足の大きさは1メートルくらい。ただ数が多く、100匹はいるんじゃないだろうか。
「ちょっとあの数はやばいな。ここから魔法を使ったらカンカルーに当たりそうだし。それにあれには触りたくないしな」
「同感です。どうしてあんな生物がいるんでしょうか。絶滅して仕舞えば良いのに」
そうか、マリアも百足は苦手か。虫は平気なのにね。
「クレア?クレア?」
クレアは座り込んで震えている。
「ムカデムカデムカデ、、、」
どうやらクレアも百足が苦手らしい。それも震えるほどに。これは場所を移してる場合じゃないな。ここから魔法でなんとかしよう。
まずはカンカルーと離れている後方を倒すか。草原だし火系統でも大丈夫だろう。でも慣れてないから、、、まあ外してもなんとかなるだろう。
火の玉を大量に作り出し、放物線を描いて百足に叩き込む。
ズドンッ ズドンッ
火の玉が爆発する音が連続し、後方をクレーターに変える。半分くらいは倒したかな。
次は風の刃で精密に狙うか。
ブシュッ ブシュッ
風の刃を横向きに発生させ、何列も切り刻む。だいぶ減らしたな。
まだ10匹ほど残っているが、だいぶ近づいてきたし、カンカルーを先に仕留めるか?
その時、カンカルーの腹袋からピョコっと小さな顔が現れた。小さな目に小さな耳。カンカルーの子供だろうか。そういえばカンガルーも子供を腹に入れて育てるって聞いたことがあるな。
しかし、子供連れのカンカルーを倒すのか。。。いや、今回のメインターゲットなんだから倒さざるを得ないんだけど、あの可愛い子カンカルーの親を倒すのか。。。
罪悪感が半端ないな。
「じ、ジン様、早くしないと、百足が!」
分かってる。だけど覚悟するだけの時間をくれ。
近くなってきたので、さらに精密に百足を撃退する。風の刃なら使い慣れているのでそう難しくはない。
1匹1匹と減っていくがカンカルーはどんどん近づいてくる。
子カンカルーよ、ごめんよ。君の事は忘れない。きっと。
風の刃でカンカルーの首を切り飛ばすと体が勢いでこちらに滑ってくる。後ろの百足も処分し終わったし腹袋を剥ぎ取るか。
ぴょこっ
腹袋から小さなカンカルーが出てきた。
う。うぅ。
罪悪感が。頼む、そのまま何も言わずに走り去ってくれ。
ガァぁ、ガァぁ
倒れた母カンカルーの顔を舐めている。死んだのを認識してないのだろう。
それを横目に体の方から袋を切り出す。子カンカルーから目線が遮られる向きにして。さすがに子供の前で母親の体を解体するのはどうかと思ったので、せめてもの処置だ。
、、、ナニー!
子カンカルーが母カンカルーの首の肉にかじりついていた。小さな口で少しずつかじっている。
、、、死んだらただの肉だとはいえ、目の前で死んだ親を食べるとは。。。
いや、可愛くてもあれは魔物だ。うん、生物として生きていくためには肉は必要だしな。うん。問題ない。
「マリア、クレア、いくぞ」
「あ、あの、あれは、、、」
「俺は何も見てない。子カンカルーなんていなかった。あそこにいるのはただの魔物だ」
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