Argue about Beasts 1

ナレーション「それでは、はじめさんから時計回りに自己紹介をし、議論を始めてください」


ナレーションの声がスタジアムに響き渡る。これが、ゲーム開始の合図だ。


①はじめ「はい、それでは席についてる番号順に行きましょう」


ステージには九人がプレイヤーが座っている。その席は下手から順に1から9までの番号が振られている。1番に座っているのが、はじめで、順に、にあ、サキ、世一郎、五郎、六波羅、ナナミ、八ツ崎、キュウだ。


①はじめ「まずは、僕から。僕の名前は、はじめ。どんな手を使ってでも勝ちにいきます。手加減しません。人狼を二日で殲滅してみせます」


はじめは意図的にビックマウスを演じた。ゲームを観に来た客を乗せ、喜ばせるのも、彼らの仕事だ。


②にあ「にあで~す。これだけの人の前でのプレイはさすがに初めてだけどぉ! でもでも、それでも見ているみんなが満足できるようなプレイをしたいなぁ! よろしく~」


一方のにあはふんわりとした自己紹介だった。だが、その裏には勝利への野心が見え隠れする。


③サキ「あたしはサキ。人狼のみなさん、覚悟しといてね、あたしの目は誤魔化せんから」


少しだけ訛っているのがサキの特徴だ。


④世一郎「余は世一郎。絶対に勝つ、それだけじゃ」


世一郎は、一人称を「余」としている。偉ぶるというキャラ付けはエンターテイメント由来であるが、威圧感を出すことで相手のミスを誘うという彼の戦法でもあり、世一郎自身も気に入っているらしい。


⑤五郎「俺は五郎。悪いが、人狼達よ。本気出さないと、お客さんが満足する前に全滅してしまうんで、本気でかかってきな」


五郎もはじめに習い、ビックマウスを演じた。恐らく自分自身を鼓舞する効果もあるのだろう。


⑥六波羅「六波羅だ! おれのモットーは『疑わしきは罰せ!』! 今日は村の平和のために頑張るのでよろしく!」


六波羅は勢いでしゃべる戦略をよくとる。どうやらそのしゃべり方だと普段より説得力が増すらしい。


⑦ナナミ「わたくし、ナナミです。冷静に、沈着に、そして確実に。人狼を見つけて参ります。よろしくお願い致します」


ナナミは努めて上品に振る舞った。血気盛んな自己紹介が続いたこともあり、それがよいアクセントになっていた。


⑧八ツ崎「俺様は、八ツ崎だ! 人狼達よ、俺様がお前らのことを、八つ裂きにしてくれるわ! 覚悟しとけぇ!」


八ツ崎もまた、世一郎とは違う手法で威圧感を出していた。


⑨キュウ「私の名前は、キュウ。矛盾したことを言っているオオカミさんがいれば、一瞬で見抜く自信があるので、私を失望させないように、みなさん頑張ってくださいね」


自己紹介の最後はキュウだった。彼女は冷静に他のプレイヤー達の顔を見渡して、ゆっくりとそう告げた。




①はじめ「はい、それじゃあ一通り自己紹介が終わったので、早速議論を始めていこう」


はじめのその投げかけに最初に口火を切ったのはキュウだった。


⑨キュウ「今回のプレイヤーの数は九人。そのうち、人狼が二人、裏切り者が一人。つまり私達の敵が全部で三人いる」


キュウはプレイヤーに対してというよりも、観戦している客を意識して戦略についての説明を始めた。


⑨キュウ「そして、一日に一人処刑して、その夜に一人人狼に襲撃される。つまり一日につき二人ずつ減っていく」


②にあ「基本的にはそうだね〜。投票数の関係で処刑なしになったり、結界師がうまく守ったりしたらズレてくるけど、それは例外〜」


にあが補足を挟んだ。


⑨キュウ「にあ、ありがとう」


②にあ「どういたしまして〜」


⑨キュウ「そして、一日に二人ずつ減っていくということは、今日は九人、明日は七人、明後日は五人、そして最終日は三人。私達は合計四回の処刑の機会がある。その中で二人の人狼を確実に見つけ出さなければならない。しかもそれとは別に裏切り者という存在もいる」


キュウの一通りの説明を聞いて五郎が口を挟んだ。


⑤五郎「つまり、キュウの結論は?」


⑨キュウ「つまり私達に余裕は全くない。だからこそ私は初日のいまこのタイミングから、情報を持っている人に出して欲しいと思ってる」


キュウの説明を聞き、はじめが口を開いた。


①はじめ「僕もキュウの言うことに賛成」


それをここぞとばかりにサキが茶化す。


③サキ「お、さすが熱々やなー」


①はじめ「茶化すのはやめてください」


はじめは真剣に照れているようだった。


③サキ「こっちだって真剣よ。まぁ、はじめとキュウの両方が人狼、とかじゃなきゃいいけどね」


サキは両手でお手上げポーズをした。


⑧八ツ崎「だが、二人ともが人狼だったとしても、俺様もキュウの意見には賛成だ。人間の目線にたっても、何も間違った考え方ではない」


八ツ崎の意見にナナミが続いた。


⑦ナナミ「そうね。キュウの説明に付け加えるなら、今回のルール、二回連続で村側の人間を処刑してしまうと、その瞬間にもう負けなのよね」


④世一郎「それは、なぜじゃ?」


世一郎も本当にわかっていないわけではない。ただ、ナナミに対して観客へ説明をするよう促しているだけだ。


⑦ナナミ「それは、いわゆるパワープレイというものが起きてしまうからよ」


④世一郎「なるほど」


世一郎はそう言いながら、手で説明を続けるように合図した。


⑦ナナミ「例えば、今日はじめを処刑して、次の日ににあを処刑したとしましょう。そしてその両方がただの人間だった。その場合さっきのキュウの説明通り、三日目にはここに五人のプレイヤーが残ることになる。その内訳は、人間が二人、人狼が二人、そして、裏切り者が一人」


①はじめ「なんで僕が処刑されてるんですかね」


はじめは不服そうだった。


⑦ナナミ「例えばって言ったじゃない」


はじめは先程のサキの真似をして、両手でお手上げポーズをした。


⑦ナナミ「そうなると、人狼は『裏切り者、出ておいてー』と合図することで、人狼陣営の三人が結託することが出来る。そうなると、その日の処刑で過半数を取れるから人間を処刑してお終い」


④世一郎「その状態が、パワープレイというわけじゃな?」


⑦ナナミ「その通りよ。だから、そうならないように早め早めに動く必要があるとわたくしも思うわ。だから、キュウに賛成」


ナナミは自分の意見をそう締めた。


①はじめ「それでは、多数決をとろうじゃないか。キュウの意見に賛成、つまり情報を持っている人は出すということに賛成の人、挙手を」


はじめの投げかけに、残り全員のプレイヤーが手を挙げた。


①はじめ「それでは、事前に能力などを与えられて情報を持っている人は、これから積極的に出していって欲しい」


そう言い終えたはじめは、一度深呼吸して、こう続けた。




①はじめ「僕は、結界師だ」

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