人狼Dual

霧山夏樹

デモンストレーション

その部屋には六人の人間がいた。そのうちの五人、アリス、ボブ、キャサリン、デイジー、エリックは、円形に並べられた椅子に座って向かい合っていた。残り一人はゲームマスターである。




A アリス「さぁ、この五人で人狼ゲームを始めるわよ」


アリスはオーバー気味に手を広げて、そのように宣言した。


B ボブ「おさらいだけど、この中には、人狼が一人と預言者が一人いる。預言者は既に一人、人狼でない人物を知っている。そして、毎晩誰か一人だけその正体を知ることが出来る」


C キャサリン「残りの三人は何の能力もないただの村人」


D デイジー「私達は、多数決で誰を処刑するか、決めなくてはならない。誰かを処刑したにも関わらず、人狼がまだ残っていた場合は、今度は人狼のターン。人狼は誰か一人人間を襲撃できる」


E エリック「そうやって処刑と襲撃を繰り返していって、一人の人狼を処刑できれば人間の勝ち、出来ないまま襲撃され続け人間が残り一人になってしまったら人間の負け」


アリスの宣言に続き、ボブ、キャサリン、デイジー、エリックの四人が各々ルールの補足をした。




A アリス「早速だけど、さっそく議論を始めましょう。何か話がある人はいるかしら?」


ルールの説明はそれで十分だったのであろう、アリスは議論を促した。


B ボブ「例えば、自分が預言者だという人がいればカミングアウトをしてもいいのではないだろうか」


ボブのその台詞を聞いてキャサリンが口を開いた。


C キャサリン「私は預言者よ。そして、私が知っている情報、それは、ボブが人狼ではないってこと」


D デイジー「本当? 信じてもいいの?」


E エリック「人狼が預言者を騙っているという可能性はない?」


キャサリンのカミングアウトに対し、デイジーとエリックが次々と言葉を続けた。


A アリス「もしまだ本物の預言者がいるのなら、きちんとカミングアウトしてほしいわ」




アリスもまだキャサリンを盲信しているわけではないようだ。しかし、ボブは違った。


B ボブ「キャサリンは本物だと思うよ。いいかい、今ここには五人の人間がいるんだ。そしてこのターンで一人処刑して、一人襲撃される。そうなると明日は3人。するとラストチャンスだ。人狼を処刑できないと人狼が一人、人間が一人になって、人狼の勝利条件を満たしてしまうからね。つまり、我々は二回だけ処刑することが出来、その二回で人狼を処刑しなければならない。いま、キャサリンが自分は預言者だと言っている。これが仮に人狼の嘘だとしたら、別の誰かが我こそが本物だと名乗り出るだろう。すると、その二人のうちのどちらかに必ず人狼がいることになる」


そこまでボブが説明したところでキャサリンにもその意味がわかったのだろう、彼女は手を大きく叩いた。


C キャサリン「そうよ! そして、私達は二回処刑することが出来る」


D デイジー「なるほど、そしたらその二回で自称預言者を全員処刑すれば、人間の勝ちになるのね」


E エリック「そうか、だから人狼がいま嘘を吐くことはありえないということか」


そして、少し遅れてデイジーとエリックもピンときたようだった。ちょうどそのタイミングで、ゲームマスターが投票の時間である旨を発した。


A アリス「あら、そろそろ処刑者を決める投票の時間のようね。じゃあ、せーので人狼と疑っている人物を指差しましょう」




B ボブ「せーの」


ボブの合図に合わせて、全員が各々怪しんでいる人物を指さした。


C キャサリン「アリスがデイジー、ボブがアリス、キャサリンがデイジー、デイジーがエリック、エリックがデイジーね」


D デイジー「今日の処刑者は、三票を集めた私ね。残念だけど、私は人間よ」


デイジーは遺言を残して、席を立った。しかし、ゲームマスターはプレイヤーに目を閉じるよう合図をした。それが意味することをその場の全員が悟った。


E エリック「なるほど、まだ人狼がこの四人の中にいるということだね。夜がくるようだ」




ゲームマスターは人狼だけを起こし、襲撃先を選ばせた。続いて、預言者だけを起こし、占い先を選ばせ、その正体を教えた。そして、全員に目を開けるよう、指示した。そして、キャサリンに席を立つよう促した。




A アリス「朝が来たわ。当たり前だけど、どうやらキャサリンが人狼に襲われてしまったみたい」


アリスはさも当然のようにそう言った。


B ボブ「僕は預言者であるキャサリンから人間だと言われている。つまり人狼はアリスかエリックのどちらかということになる」


ボブはアリスとエリックを交互に見た。


E エリック「分かってると思うけど、俺はアリスに入れるし、アリスは俺に入れるだろう。つまりボブが間違えると村は負けだ」


エリックはボブだけを見て答えた。


A アリス「そうよね、ボブ、本当にお願いね」


続けてアリスもボブにそう伝えた。


B ボブ「分かってる、大丈夫、僕の中ではもう決めている」


ボブのその台詞を最後に、ゲームマスターが投票の時間である旨を伝えた。




E エリック「それではせーので指をさそうか」


エリックの合図にあわせ、三人がそれぞれを指さす。


A アリス「アリスがエリック、ボブがアリス、エリックがアリス。ということで今日処刑されるのは私ね」




アリスはそう言い残すと、席を立った。




人狼がいなくなったため、人間の勝利だ。

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