第132話 中庭での激闘

城の中庭に吹き飛んだディアボを追って、俺達は次々と窓から身を躍らせる。騒ぎを聞いて集まって来ようとしている兵士達の姿がチラホラ視界に入るが、ディアボから感じられる圧力のせいなのか、及び腰になっているようだ。




「なかなか面白い技を使うな。ますます気に入った。これは是非とも俺の手駒にするとしよう」




あくまでも上から目線の発言が癇に障る。下に降りた仲間達は中庭の広さを活かしてディアボを取り囲んだ。普通なら袋だたきで終わるほど多勢に無勢だというのに、奴の余裕の態度は崩れないままだ。この中で奴と接近戦をやって何人が持ちこたえられるだろうか?


実力不足の者が下手に手を出しても邪魔になりそうだな。




「どうした? かかってこんのか?」




こちらの出方を見るつもりなのかディアボは動かない。よし、こっちを舐めてくれるなら好都合だ。お望み通り袋だたきにしてやる。




「シーリ! グラディウス! リン! お前達でそいつの足止めをしろ! 爆弾で吹き飛ばしてやる!」


「お任せを!」


「承知!」


「まったく……!」




シーリは嬉々として、グラディウスは勢いよく、リンは嫌々な様子で、三人の達人が剣を抜いてディアボに襲いかかった。流石にこの三人が相手ではさっきまでの余裕は無いらしく、表情を引き締めて彼等を迎え撃っている。正面から突き出された剣を籠手で逸らし、背後から切りつけられた剣を横に跳んで躱す。横薙ぎに繰り出された斬撃を、地を這うような姿勢で躱したかと思ったら、お返しとばかりに足を狙って切りつける。




そんなディアボの驚くべき戦闘力だが、俺達も黙って見物しているわけが無い。スキルを使えるものは精神を集中させて普段より威力を高める事に専念し、残りの者は導火線に火をつけて爆弾を投げつける準備を終えていた。




「避けろ!」




一斉に飛び退くシーリ達三人と入れ違いに、周囲から一斉に爆弾が投げつけられた。ディアボはそれが何なのかわからないので避けようともしない。複数の爆弾が迫る。奴がどんなに素早く動こうが、もはや回避しようのない距離だ。




バン! と言う大気を震わせる破裂音が鼓膜を震わせ、衝撃波が身を伏せた俺達の頭上を通り過ぎていく。もうもうと上がる土埃ではっきり見えないが、流石にこれだけの攻撃を受ければひとたまりも無いはずだ。今の強さがスキルによるものなのか、修練によって身につけたものなのかは気になったが、最優先は俺達が生き延びる事だ。勿体なく思っても仕方が無い。




「よし、これで排除でき――」


「ケイオス様!」




突如俺の前に飛び込んできたシーリが剣を一閃させると、土煙の向こうから鋭く突き出された剣の切っ先が払いのけられる。慌てて後方に跳んで距離をとる俺の前には、粉々になったはずのディアボの姿があった。




「いや、今のは驚いた。お前達珍しく武器を持っているな」


「……嘘だろ」




服があちこち破れ、多少怪我を負っているように見えるが、ディアボはピンピンしている。文字通り岩をも砕く威力の爆弾がいくつも至近で爆発したというのに、なんでこんな平気なんだ!?




「俺のスキルの守りを突破した攻撃は初めてだ。褒めてやるぜ」


「……お前、何者だ?」




勇者因子を持つシーリですら敵わない剣の腕に加えて、爆弾すら通用しない防御力を誇るスキル持ち。これがただの剣士であるはずがない。ひょっとして俺達は、とんでもない奴に喧嘩を売ってしまったのではないのか?




「さっきも言っただろう。魔王に連なるものだと」


「そんな奴は俺達の仲間にも居る!」




大森林で留守番役を勤めているシオンは魔王の縁戚だと言っていた。正確には両親だったと思うが、それだけでここまで強いとは考えにくい。実際シオンにこれほどの強さは無いのだから。




「なるほど。確かに俺の言い方が悪かったか。連なるものというのは因子持ちという意味だ。聞いたことは無いか? 魔王の因子や勇者の因子と言う言葉を」




聞くも何も最近シーリから聞かされたばかりだ。て事はこの男、魔王候補の一人ってことか!? なんでそんな奴がこんな田舎をウロウロしているんだと毒づきたくなる。しかし――と、俺は考え直す。ここでコイツを叩きのめし、魔王の因子とやらを俺が吸収できるかどうか試してみる価値はあるはずだ。




「魔王候補なら強いはずだな。だが……考えようによっては、二度と無い好機だな」


「ほう? 俺が何者かを知ってそんな台詞を吐けるのか。ハーフにしておくには惜しい胆力だな」




徴発するようなディアボの言葉に応えず、俺は仲間達に目配せする。真っ先に動いたのはラウだ。彼女の矢の先には導火線に火のついた爆弾が括り付けられている。無言で放たれた爆弾つきの矢はディアボまでの距離をあっという間に詰める。




「その武器はもう通用せんぞ!」




ディアボは避けること無くその場に留まると、驚くべき事に矢を導火線ごと一瞬にして切り落としてしまった。一度受けただけで爆弾の特性と弱点を見破るなんて信じられない判断力と剣の腕だ。しかし攻撃はそれだけではない。追撃でルナールが全力で氷の矢を射出し、いつの間にか上空に昇っていたリーシュが投擲した槍が凄まじい勢いでディアボに迫る。




「ちっ!」




ルナールの氷の矢は一つ一つの大きさは従来のものより小さいが、とにかく数が多い。壁のように迫ってくるそれらを避けるなどいくらディアボでも不可能だ。それを瞬時に理解したディアボは当たる面積を最小限に抑えるべく、剣を振り回して氷の矢をたたき落とそうとする。そこに迫るリーシュの槍。ギリギリで直撃を回避したディアボの腕の肉を抉りながら、槍は地面に突き刺さった。




「ラウ!」




ディアボの怯んだ今が好機と判断した俺は全力でディアボ目がけてかけだした。その背を押すようにラウの放った暴風が凄まじい勢いで叩きつけられる。すると背中で爆弾でも破裂したかのように、俺の体は猛然と前に押し出された。槍を構えて一直線にぶっ飛んだ先には体勢を崩したディアボが居る。




「なに!?」


「くらえええ!」




まさか人が飛んでくるとは思わなかったのか、流石のディアボも驚愕に目を見張った。そんな奴の体に槍を抱えた俺の体が激しく激突したのだった。


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