お題『致命傷』ドラゴンとの戦い 結末

「ぐッ…………!」

女剣士ナオは最後の敵と対峙していた。

目の前にいるドラゴンを倒さなければ、世界はいつまでも暗い闇の中だ。

かつてのパーティたちは用事があるとか、連絡が取れなくなったりとかでナオはひとりで魔物と戦ってきた。

回復魔法を覚え、攻撃魔法を覚え、自分の必殺技も覚えと大変だったが、おかげでパーティいらずの剣士になった。

しかし、さすがのナオでも最後の敵であるドラゴンには苦戦を強いられていた。

「よく来たな! ニャオ! ここまで来た事を褒めてつかわすぞ!」

目の前のドラゴンは小さな羽に額に小さな二本の角を生やした7歳くらいの少女だったのだ。

「こんなの反則だろ……」

目の前の少女を倒さなければ、世界を救えない残酷さ、そして少女の可愛さに剣を構えることができない。

今まで倒してきた魔物は魔物でございますと言わんばかりの醜いデザインで容赦なく、剣を振り下ろしてきたが、人間の姿。しかも、少女だ。

「どうした! お前が今まで倒してきた魔物のように私も倒してみろ!」

完成されていない子どもの高い声がナオの耳に響いていく。

「それならお前が倒しやすい姿になってやろう!」

少女がそう言うと、少女を包むように黒い風が吹いてきた。

風が消え去ると中から背の高い女が現れた。

身体は獣の毛で覆われ、爪は巨大な[[rb:鷲 > わし]]を彷彿とさせるモノになり、羽も角も身体に合わせた大きさになっていた。

「これなら、戦う気になった? 剣のお嬢ちゃん?」

先程の少女の成長した姿なのか、これが、本当の姿なのかと考えながらナオは剣を構えた。

「ああ。さっきの姿はどうやら幻影だったようだな……これなら容赦なく戦えるさ……望み通り倒してやるよ! ドラゴンの姉ちゃん!」

ナオはドラゴンの女目掛けて走り出した。

走っている間にスピード強化魔法、防御強化魔法、攻撃強化魔法など身を守るための魔法をかけた。

残像しか見えないスピードでナオはドラゴン女の羽を斬り落とした。

「剣士というのはこんな小賢しい手を使うのかい?」

ドラゴン女は余裕の表情だった。

(羽を斬られたというのに平気なのか?)

ナオの頭上に巨大な爪が振り下ろされた。

急いで剣でガードするもわずかに遅れてしまい、頬にわずかな傷がついた。

「結構気に入っている羽だったのに残念だわ。もっと素敵な羽にしようかなー?」

女がそういうと背中から巨大な黒い羽が空を覆うかのようにナオの視界には映った。

「くッ!」

ナオは女から距離を取ると、遠距離攻撃魔法を属性全てを使い始めた。

「火!」

「水!」

「風!」

「土!」

「雷!」

魔法は全て、羽に弾き返され、ナオの元へと戻ってきた。

「うわあああああ!」

「あはははははは! 可哀想な剣士ちゃん! 本当は魔法使いとかもっと仲間がいたんだよね! 1人で全部覚えてきて偉いねー! お姉さんだけ認めてあげるよ、貴女のがんばった姿を!」

間一髪のところで防御魔法を使い、ダメージを最小限に防ぐことはできたが守りきれず右手をやられてしまい、剣を持つ手が不安定になってしまった。

「やっぱり1人で全部やるの大変じゃない? お姉さんの仲間になるのどう?」

「ふざッけるな……」

「だって仲間いないんでしょ! 1人で私に挑めるほど強くなって、あなたはどこへ行こうというの?」

「私は……」

後ろからナオを抱くと暖かく包み込んだ。

ナオは振り解くこともなく、ただ身を任せた。

ドラゴン女の言う通りだった。

倒したら平和になるであろう。

では、英雄として祝福されるのだろうか。

仲間はひとりで戦ってきたナオをどう思うだろうか。

全てを捨て、身体にたくさんの傷を作り、いなくなっていった仲間たちのスキルを補ってきた自分とはいったい。

頭の中には自分がやってきたことと仲間への怒りでいっぱいになってきた。

「そうだ……憎め……憎むんだ! お前の腰抜けの仲間たちを戦いを押し付けた民を!」

「憎む……憎んでやる……!」

「そう……だ!?」

女の首に矢が突き刺さっていた。

ナオは剣を広い、女から距離を取った。

「遅いぞ、みんな」

「悪い悪い。この辺の魔物に手こずった」

「仲間が……? なぜだ? お前は1人で来たはずじゃ?」

首から矢を引っこ抜き女は片手で握り折った。

「1人だったが、『来ない』とは言ってないぜ」

女の背中に炎の玉がぶつけられた。

不意打ちに羽で守ることができなかった。

「ぐはぁッ!」

「ナオの魔法じゃ、この威力でないでしょ?」

「さてと、パーティが揃ったから行きますか?」

「ま、待て! 剣士! 卑怯だぞ! それがお前らのやり方か!?」

「正々堂々の戦いは競技だけだ! これは死ぬか生きるかの戦いなんだよ!」

「わかった……こちらも本気でッ!?」

ナオは女が何かをする前に正拳突きをかました。

「ぐッ!?」

「悪いね……まだ、強化魔法効いてるんだ」

「このやろうおおおおおおおおおお!」

女は爪でナオを突き刺そうと何度も攻撃するが、全て剣で弾かれてしまう。

「お前……さっきまでのは芝居だったというのか?」

「終わりにするぞ……必殺……」

「ま、待て!」

「剣の[[rb:王 > ソードエンペラ]]ーーーーーーーーー!」


世界から闇が消えた。

数日後。

「ニャオ……。この剣重いよー」

「あららー? ドラちゃんにはまだ早かったかな?」

「ふん? そんなことなどない!」

ナオの必殺技、ソードエンペラー。

それは相手の心を斬り、悪を排除する。

ドラゴン女、ドラゼレスは驚くほどに改心し、子どもの姿になったまま、ナオに懐いてしまった。

「アンタがあの色っぽいドラゴン女だったなんて信じられんな」

「ふん! アタシもアンタにお世話になるなんて思わなかったわ。その、えっと……」

「ん? どうした?」

「ほっぺたごめんね」

「ああ。これ、大丈夫。脱いだらもっとすごい傷あるから」

ナオは服を脱ごうとしたとき、ドラゼレスは手で目を覆った。

———やれやれ、この子の心を斬り過ぎちゃったかな?





                                    了


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る