復縁
「今度こそ大丈夫だよね……」
私は熊のキーホルダーを見ながら、というか睨みつけながら呟いた。
高校生の頃の親友といろいろあってケンカ別れしてしまいそれ以来、お互い連絡を取らずいた。
気が付いたら20歳を超え、就職を迎える月日が経っていた。
それが三日前連絡があり、今日会うことになった。
熊のキーホルダーは修学旅行行ったときお揃いで買ったという改めてベタな思い出だなーと振り返った。
ケンカした理由はまあ、向こうに彼氏とかいうのができ、私との付き合いがおざなりになり、いつも一緒に帰っていたり、一緒に課題やテスト勉強やカラオケをしていた部分を全て突然の彼氏に取られたのが怒りの原因だった。
「彼氏と」「彼氏が」で毎回断られれば、凹む。
私はその頃、恋愛に縁がなく、永遠にそんなことで悩むとは思っていなかったが大学生になり、自分にもそういう相手ができたら「彼氏」の言葉を連発して、付き合い何回か断ることがあった。
それに気が付いたときにはもう戻れなかったが、私の中では親友との思い出は過去のモノで忘れかけてさえいた。
連絡を取ろうと思えばいつでも取れたはずなのに、どちらからもしなかったのはその程度の仲であったし、もう大人だ。
そして、なぜか就職寸前で突然連絡があった。
正直、怖かった。
連絡がなかった人間から連絡があるとろくなことになるということを大学の先輩やネットで見聞きしてきたからだ。
メールでの連絡だったので、私は恐る恐るメールを開いた。
『来週、会えない?』
それだけだった。
そして、現在にいたる。
そこそこ、値段のする喫茶店で私は彼女を待っていった。
神経質の性格だからか常に25分前に待ち合わせ場所に着くという癖が私にはあった。
携帯をパカパカ開いたり、文庫を一行読んでは閉じたり、アイスコーヒーをひと口飲んだりと落ち着かないのが目に見える。
この癖は20超えても治らないが、相手が来れば普段通りに戻るから、この癖を知るものはいないと思っていたが、1人だけいた。
彼女は約束の15分前に来た。
「お待たせ。相変わらず落ち着かない子だね」
彼女が来た。
髪を染め、化粧をし、すでにスーツを着ていた。
「就活帰り?」
「いや、仕事帰り」
「そうなんだ」
自分はこれから本格的に社会に出るのに彼女はすでに社会に出ていたのが少し悔しかった。
「変わったね」
彼女は私に言った。
「変わってないよ」
「髪染めて、化粧して、ピアスしてなんか不思議な感じ」
「そっちだって変わってるじゃん」
「まあ、お互い変わるよね。同じ人なのにね」
「どういう用でメールをしてきたの?」
私はこのままだと雑談で終わってしまいそうな気がして、本題へと舵を切った。
「用……ね。とくにないよ。ただ、会いたかっただけ」
「今更?」
「ダメかな?」
「彼氏はどうしたのさ……」
「今はいないね。高校の彼とは行く場所違い過ぎて交際なんて無理だった」
「行く場所が近かったら?」
「わかんない」
「いい加減だなー」
「これ覚えてる?」
彼女は携帯に熊のキーホルダーを付けていた。
「覚えてる」
私もさっきまで睨みつけていたキーホルダーを手から出した。
ずっと握っていたから熊はあったまっていた。
「修学旅行でお揃いってベタだよねー」
彼女は私と同じことを思っていたようだ。
「高校生レベルだったらそんなもんじゃない?」
いったい彼女は何の用で何が言いたいのだろう。
「そういうことで、新しいお揃いのものを用意してきた」
「…………」
理解ができなかった。
ケンカ別れして、三日前に連絡してきてお揃いを渡せる彼女の感覚に。
「理解できない……」
「私もどうかと思ってる」
「じゃあ、なんでそんなことするの?」
「好きだからかな」
「今更……」
「本当、今になってだけどさ。新しい関係になれないかな」
「また、友達になれってこと? これから社会に出るのに友達作りなんてやるわけないでしょ」
「社会に出ると本当に友達作りにくくなるよ」
「それで私とまたお友達になれと」
「いや、友達じゃない。恋人になってほしい」
「それこそわからない」
「だから今日は指輪を持ってきたの」
「段階が早い」
「お互いの左手にはめておけば近寄ってくる人減ると思うの」
「わ、私も貴女のことは好きだけど、その好きとは違うから」
「これから好きにしていきたい」
押し問答を繰り返し、出した結論。
「じゃあ、お友達から始めましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます