床に浮かぶ人影(7)
……私が大学を卒業したころは、大変な就職難で、百社以上を受けて、どうにか今の運送会社に入り込みました。
私の会社は、実際に働いている身からすると、それほどひどくはないと思うのですが、世間からはブラック企業のように見られています。
確かに、労働時間は長く、給料は安いです。
それでも、どうにか頑張ったおかげで、結婚はできませんでしたが、このマンションを中古で買うことができました。
私はもう多くは求めていません。
定年まで今の会社で働いて、このマンションで老後を過せれば、それで十分なのです。
一人は寂しいかもしれませんが、安らぎはあります。
そういう思いで、このマンションに入居した当日から、不思議な現象が起こり始まりました。
物が知らない間に動く。
テレビやエアコンの電源が勝手につく。
寝室で寝ていると、リビングで誰かが歩いている音がする。
数えれば切りがありません。
最初は日々の疲れのせいで、自律神経がおかしくなっているのだろうと思い込みました。
しかし、段々と内容がエスカレートして行くなかで、その自分への言い訳も通じなくなりました。
物が壊れる。
金縛りにあう。
悪夢にうなされる……。
盛り塩をするなど、自分で出来ることはしましたが、効果はありませんでした。
電話で不動産屋に問いただしましたが、埒が明きませんでしたので、直接乗り込んで聞いたところ、何人か前の住人が自殺しており、その後に入居した人たちも、皆、短期間で退去していたそうです。
今はそういう事故物件を調べるサイトもあるそうですが、私は知りませんでした。
住みにくさよりも、終の棲家として買った物件がいわくつきであったという事実のほうが、私のショックは大きかったです。
引っ越すお金も時間もない私は、我慢して住み続けました……。
しかし、半月前、ストレスと疲労が蓄積するなかで、私は会社で大きなミスを犯してしまい、やけ酒をあおって、このマンションに戻って来ました。
すると、真っ暗なリビングに、何者かが立っているではありませんか。
「お前か。何があったか知らないが、精いっぱい生きている人間をなめるな」
そう叫びながら私は、その何者かの首を締めました。
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