第8話 アカウント落ち

「武器屋か!」


「気が付いた?そうよ。武器屋の主人がそのスキルを作った本人なの。その本人に認められた者だけがそのスキルを保有することが出来ると言われてるわ」


ということは武器スキルを手に入れるには、武器スキルを持っている連中をかいくぐって武器屋にたどり着かないといけないわけか。出来るのかそんなこと。


「まぁ、当面はそんなこと心配しなくても良いわ。まずはイエローのミッションを軽くこなせるようになるのが先決よ」


「それなんだが、アタックの訓練を行う場所とかはないのか?」


これはずっと疑問に思っていたことだ。自分は他者からのハッキングを恐れて、その知識をOPWで学んでいたから逆に攻撃の方法もある程度は理解していたが、その経験がない場合は、このブルーでさえ生きて行くのが困難になるはずだ。


「無いわね。最初からぶっつけ本番。出来ないプレーヤーは虚無行き。誰も助けてはくれないわ。唯一の補助者はバディね。こっちの世界に来てテストを通過するとバディがあてがわれるの。その人が唯一の味方。あなたは運がいいわよ。私がバディになって」


そういうことか。思ったよりも弱肉強食な世界だな。俺はテストを受けていないが、攻撃は初期レベルのようだがクリアしている。それにレアと呼ばれるスキルも持っている。その辺を考えると有利な部類になるのだろうか。しかし、訓練を行う場所がないとなると……本番で鍛えて行くしかないな。それにしてもアタックのスケジュールは誰が決めているのだろうか。先着順というわけでもなさそうだ。今までの経験上、誰かが決めているように思える。センタータワーと呼ばれる「モノ」なんだろうか。


「雫、次のミッションはどこでいつやるんだ?」


「あら言ってなかったかしら?明後日またイエロードッグに行くわよ。今回は午前中の予定だから。この前よりも早く出るわよ」


「それなんだが雫。そのミッションの予定は誰が組んでるんだ?センタータワーか?だとしたら、この前センタータワー管理者は自分だと言っていたが、雫が組んでいるのか?」


「ちょっと違うわね。私は確かにブルーマスターなんだけども、このスケジュールを組んでいるのは別の存在。それがなんなのかは私も把握できていないの。ただ、ID持ちには定期的に連絡が入ってそのスケジュールも一緒に分かるの」


「それじゃ、雫のブルーマスターってのはどういう存在なんだ?OPWを管理しているのはゲームマスターというのが俺の認識なんだが」


「それもちょっと違うわね。そもそも、新海くんの言っている存在と私は別物よ。私は単純にマスタークラスの存在っていうだけよ。だからブルーマスター。あ、でもわかってると思うけど、私が出来ることは言えないからね。もしかしたら武器も持ってたりしてね?うりゃ!なんちゃって」


雫は懐からナイフを出すような仕草をしてこちらに突き刺す仕草をした。そう。ナイフだ。雫はナイフを知っている。形状と使い方を知らなければ先程の仕草は出来ないはずだ。必然的に雫はブラックレベルのプレーヤーということになる。それがなぜ初心者の俺と組んでいる?こちらの世界に来てから疑問ばかりだ。


「今日のミッションはこの前と大して変わらなけど、今日は垢BANまで持って行くわよ。ある程度は削ってあるけど、垢BANは結構難しいの。私の指示に従って動いて頂戴。あんだすたん?」


「分かった。今日は全部指示に従うよ」


昨日の推測が正しければ雫はブラックレベルの実力者だ。自分のような青二才がどうこうできるレベルではないのだろう。ここは完全に指示に従った方が得策と考える。


「そこ!遅い!監視モニターをもっと見て!そんなノロノロしてたら捕まるわよ!出来た?それじゃ、いっくわよぉ~。おりゃ!それ!どりゃ~!!」


雫はいちいちうるさい。もっとスマートに出来ないものか。でも結果が伴っていればそんなプレースタイルも正解の一つなのかもしれない。


「やった!成功~!!落としたわよ!全額いただきぃ!」


ミッションに成功した。ということは、垢BANされたターゲットプレーヤーはレッドプレーヤーとなり、このUGWに落ちてくるはずだ。


「雫、今攻略したプレーヤーはこの世界に落ちてくるのか?」


「来るわよ。場所は分からないけどね。無事にブルーに落ちてくれれば良いんだけどねぇ。ブラックになんて落ちられたら、瞬殺だわ」


「なんでブラックマネーもIDも持たない落ちたてのレッドプレーヤーが狩られるんだ?」


「スキルシーフってのがいてね。持っているスキルを盗むの。そしてそのスキルを売り飛ばすのよ。それが魔法屋って呼ばれてる。そして用無しになったなったレッドプレーヤーは廃棄されるってわけ。さ、今日の仕事も終わったし、さっきのプレーヤーがブルーに落ちてくるなら顔でも見に行こうよ」


スキルシーフか……。そんなのに出会ったら自分のスキルも盗まれるのだろうか。


「よぉ、新海に雫!新入りだ。佐藤俊夫っていうやつだぜ。sugar&saltだぜ!おい!シュガーこっちに来い!」


「どうも……。さと……いえ、シュガーです」


俺と同じ日本人、みたいだ。前髪の長いくせっ毛。制服は俺の学校じゃないな。今時学ランの学校なんてあったのか。それにいやに低姿勢なやつだ。そんなのでこの世界を生き延びることが出来るのか。なんにしても、ここブルーに落ちてきて良かったと言うべきか。雫は自分が落としたプレーヤーをどう見ているのだろうか。


「うーん……残念だけど、この子はダメねきっと」


残念そうな顔をしている。例のタワーのテストを通過できないとでも言うのだろうか。


「ウィル、シュガーも例のところに行ってテストを受けるのか?可能であれば俺も同行したいのだが」


自分はそのテストを受けていない。受けたプレーヤーがどうなるのか興味がある。雫にも許可をもとめたところ、問題ないので一緒に行こうという話になった。

インターホン越しにシュガーが名乗っている。俺の時はここでなにも起きなかった。ウィルが言うにはここでタワーの扉が開くはずなんだが。


ガコン……


扉が開いた。ウィルに促されてシュガーはタワーの中に入っていった。


「ここから先は、どうなるの俺も分からねぇ」


ウィルはそう言うと真面目な顔でタワーの扉を見つめている。10分ほど経っただろうか。扉も閉じたままなにも起きない。


「だぁーっ!ダメかよ!またかよ!なんにんめだよチックショウ!!」


ウィルは癇癪を起こしている。なんでもウィルは今バディがおらず、新たなテスト通過者を探しているとのことだった。彼はこのまま虚無に落ちるのだろうか。そう考えていると、タワーの扉が開いてシュガーが出てきた。


「おい!シュガー!レッドマスターになんて言われた!」


ウィルは興奮気味にシュガーに詰め寄る。

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