world end
PeDaLu
第1話 Under Ground World
なんでこんな事になったのか。新海は大きなため息をついていつもとは違うマシーンの前に座る。
「今日からあなたのバディになる雫。よろしくね」
ここは、この世界で言う「アンダーワールド」だ。正規の世界から追放されたならず者たちの集う世界。なんで俺がこんなところにいるのかと言うと……。
「新海、お前……、成績が良いな。それも異常に。なんでだろうなぁ。普通じゃあり得ないよなぁ。ええ?どうだ?」
この世界の教師は生徒の育成の他に、不正ツール利用者を発見する立場にある。無論社会人は警察に管理される。
なぜそんなことをされるのかというと、この世界はゲームの成績がそのまま現実世界の成績になるからだ。つまり、ゲーム世界で稼いだお金が現実世界でそのまま収入になる世界。政府はそのゲームの運営管理者というわけだ。
「どう、と言われましても」
「ほう……。しらを切るつもりか。証拠は上がってるんだぞ。この攻略地域でこの成績はあり得ない。分身でもしないと上げられない成績だ。つまり……」
「ちょっと待ってください!俺が不正ツールを使ったとでも言いたいのですか!?」
どうやら俺はこの教師に不正ツール使用者の疑いをかけられているようだ。成績を上げなければ罵倒され、上げ過ぎれば不正ツール使用者呼ばわり。理不尽極まりない。しかし、実際に不正ツールなんて使用していないんだ。ログを見てもらえれば分かることだ。
「まずは……まずはログを確認してみてください!そすればきっと……」
「新海なぁ、そのログを確認したからこうしてお前に弁明の余地を与えてやってるんだぞ?それともなにか?この場で垢BANされてレッドプレーヤーにでもなりたいのか?
「だから俺はなにも……!!」
「わかったわかった。お前の言い分はよーくわかった。残念だよ。このクラスでも最高の成績を上げていた生徒だったのにな。まさか自身の力じゃなかったなんてな。先生は悲しいよ。ゲームマスター!教師権限実行!新海隆介をオープンワールドから追放を進言する!本部審査の上で決定をお願いしたい!」
「先生!ちょっと待ってください!俺は……なに……」
足先の映像が乱れる。徐々に上半身に映像の乱れは広がり、オープンワールドからの排除が実行されている。以前、この光景を見たことがある。対象者が必死に抵抗しても、こうなると何も抵抗はできない。ゲームマスターには誰も逆らうことはできない。消えてしまった後にどこに行くのか、俺にも分からない。以前、教師に聞いたことがあるが秘匿事項とのことで教えてもらうことはできなかった。
意識の外でなにか騒がしい物音がする。笑い声に怒鳴り声、それにこの臭いはなんなんだ。
「よぉ、新入り。いい加減目を覚ましな。そんなところに寝転がられたら邪魔で仕方がねぇんだよ。ほらッ!」
両頬を片手で叩かれる感触を受けて俺は薄っすらと目を開く。
「ここは……」
「おう。やっと目が覚めたか。ここはレッドプレーヤーの集う街だ。政府の連中はアンダーグラウンドワールド、略してUGWなんて呼んでやがる。新入りにはまずはこの世界のルールを知って貰う必要がある。タダ飯を喰らおうなんて考えるなよ。自分の生活費は自分で稼ぐんだ。ほら、こっちだ」
ウィルを名乗る男、色黒なスキンヘッドに黒いサングラスをかけた体格の良い男に起こされた俺は顎で示した方向に、共に付き従った。俺は何も知らないこの世界で誰の手も頼らずにいるのは不利と判断したためだ。
ウィルは酒場のようなところの椅子に勢いよく座り、店員らしき女性に注文をしている。
「なにボーッとしてんだよ。こっちに来いよ。んで、そこに座れ」
俺は活気の満ちたこの世界に圧倒されてウィルの声が聞こえなかったが、手招きをされているのが見えたので、とりあえず席について周りの様子を伺っていた。
「なんだ?こういうのは初めてか?上の世界では優等生通してたのか?真面目なやつだな。なんでそんなやつがこっちに来たのか知らねぇし、詮索するつもりもないんだがよ。この前のゲームで賭けに負けちまってよ。次の新入り教育は俺がやることになったんだよ。って、おい、聞いてるか?」
「あ、すみません。あまりに騒がしくて」
「ああ、こっちの世界じゃブラックマネーは毎日争奪戦だからな。下手をこくと運営にアカウント永久消滅処分を受けるからな。みんな必死なんだよ」
「その、ブラックマネーってなんなんですか?」
「まぁ、そう焦るな。順を追って説明するからよ」
ウィルはこの世界の状況、簡単なルールを教えてくれた。結構いい人なのかも知れない。まずこの世界は、上の世界、つまりオープンワールド、OPW落ちしたプレーヤー、通称レッドプレーヤーの集う世界とのことだ。OPWでは政府が運営する「Seven keys world」という、世界に散らばる7つの秘宝の鍵を集めて終焉の世界と戦う、という安っぽいロールプレイングゲームのような世界が広がっている。そのOPWで不正ツール利用者と認定されて垢BANされると、このアンダーグラウンドワールド、UGW落ちとなる。この世界の住人は「Seven keys world」正規プレーヤーアカウントを攻撃して獲得マネーを奪取したり、アカウントごとBANさせて保有マネーを丸ごと奪ったりすることを生業としているらしい。そうして獲得したマネーのことをブラックマネーと呼んでいるとのことだ。
「ウィルさん、運営はなぜこの世界の存在を許しているのでしょうか。なぜ殲滅部隊を送り込まないのでしょうか?」
「まず、そのウィルさんってのはやめろ。ウィルでいい。それは俺にもよく分からん。多分、必要なんじゃないか?もしくは面倒くさいか。なんにしてもこの世界があるから俺たちは生きていられるんだ。そこんとこは運営に感謝でもしておけ」
「ウィル、一つ質問と確認をいいかい?OPWの正規プレーヤーを攻撃したり垢BANしたりするのは、正規プレーヤーアカウントに不正ツールを仕込んで攻撃するのか?」
「おお。察しが良くて助かるよ。そういうことだ。ただし。OPWの監視部隊にバレた場合はこちらのアカウントがBANされる。そうなって消えた奴らがどうなったのかは俺は知らん。まぁ、今の所、あいつらとは二度と出会えなそうだがな」
ウィルの話をまとめるとこういうことらしい。UGWのレッドプレーヤーはOPWの正規プレーヤーに不正ツールと仕込んで保有マネーを盗んだり、垢BANまでもって行って保有マネー全額を奪ってレッドプレーヤー落ちさせたりする。そうして仲間を増やしてOPと戦うとのことだ。その過程で攻撃に失敗したレッドプレーヤーは運営にアカウント永久消滅の措置を受けるようだ。この世界のアカウント永久消滅は死を意味する。つまり、このUGWは牢獄のような世界というわけだ。
「で、ウィル。俺はまずはなにをやればいい?OPWに接続可能な端末でもあるのか?その場合のログインアカウントはどうなるんだ?まさかOPWでのアカウントがそのまま使えるわけではないだろう?」
「だから焦るなって。ちゃんと説明するからよ。俺たちはこの世界専用のアカウントを町の中心にあるセンタータワーで貰うんだ。その時に使い物になる人材かどうかのテストがある。ここでふるいにかけないと雑魚がたくさん集まってプレイマシンが足りなくなってしまうからな。」
ウィルが「いる」ではなく「ある」と言ったということはセンタータワーというのは人間ではなくシステムかなにかということだろう。それにプレイマシンが足りなくなるということは、有限のものであり、限られた人材のみが使用出来るもののようだ。
「ウィル、そのセンタータワーのテストってのはどういう感じのものなんだい?」
「分からん。毎回違うんだ。俺の時はなぜこちらの世界に来たのか理解しているか?という質問だけだった」
ウィルのテストはなかなか 高度なものだったようだ。自分がなぜこの世界に来たのかを理解しているということは、UGWからどのような攻撃を受けたのかを理解している必要がある。もっとも、マヌケな不正操作を行ってレッドプレーヤー落ちしただけのアホかも知れないが。まぁ、自分もUGWから攻撃を受けてレッドプレーヤー落ちしているから人のことは言えないわけだが。
しかし、困ったぞ。現状、自分はOGWからどのような攻撃を受けたのか理解していない。同じ質問を受けたら答えられない。酒場の喧噪の中で顎に右手の指を押し当てて一人の世界で自問自答を繰り返す。ここにいる奴らはすべて、何らかのエキスパート。じゃないと生きれいられないはずだ。
「ウィル。この世界にいる住人はすべて何らかのエキスパートなのか?」
「ん?なぜそう思う?」
「センタータワーのふるいにかけられて、かつ、こちらでブラックマネーを稼げるってことは、少なくともOPWの連中よりも高度な技術を持っていなければ出来ない芸当だ。それに……」
「おっと。センタータワーからのお呼びがあったみたいだぜ。すぐに行かないと叱られるぜ?」
ウィルに腕を引かれながら人混みを縫って街の中央にそびえる巨大なタワーのに連れて行かれる。天井までありそうなタワーだ。天井?この世界には天井があるのか?そもそもウィルは何でセンタータワーから俺が呼び出されたって分かったんだ?さっきから疑問ばかりが頭を支配する。
「ここだ。心の準備は良いか?」
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