第2話 黒い戦士の尋問
日が沈みかけた森に血の匂いが充満し苦悶の呻きが小さく聞こえてくる。
全身を黒い甲冑で覆った騎士が身体が真っ二つになった蛇のような男の顔を今にも潰れそうな勢いで踏みつけていた。
ミシミシ、と軽く骨の軋む音が聞こえる。
「ぐ……ぐ……おのれ……!きさまは何者です⁈正教の者ですか……?がっ!ぐぅ……!」
踏みつけられているパウムが黒い騎士に問いかけると騎士は更にパウムの顔面を踏みつける圧を強めた。
「質問するのはこちらだ……俺の質問に正直に答えろ。さもないと殺す。いいな⁈」
黒騎士は足元の蛇男に有無を言わさぬ態度で傲然と言い放つ。
「ふん……おもしろい。やれるものなら……」
パウムの残っていた右腕がシュルシュルと伸び黒騎士の死角より忍び寄った。
「やってみなさい!」
そして鋭い爪の生えたその腕が黒騎士の首筋に向かって勢いよく伸びた時だった。
銀色の閃光が奔りパウムの右腕が一瞬で切り落とされた。
黒騎士はいつの間にか抜刀していた。
「ギャアアアアアアア‼︎おのれええええ!よくもデミウス教司祭である私にィィィィィ!きさま!磔にしてやるからなっ!」
黒騎士は躊躇せずパウムの鼻先を蹴り上げ更に手にした剣で蛇男の左目を切り裂いた。
「ギャアアアアアアアアアアアアア‼︎おのれェェェェェェ!こんなことしてデミウス教徒たちが黙っていないぞ!後悔するなよ!」
黒騎士は懐から小瓶を取り出すとキュポ、と音を立ててコルクの栓を抜いた。
それを見たパウムの表情が変わる。
「喋りやすくしてやろうか。次は残った目だ。いいか、俺は貴様を殺すことになんぞ何の躊躇もない。聞きたいことは次の獲物に聞くだけだ。デミウス教徒?向かってくれば皆殺しにしてやる。これが最後だ。俺の質問に答えろ。わかったか?」
何の感情も込めないその黒騎士の言葉にパウムは震え上がり、始めて怯えを見せた。
「……わ、わかった。答える!答えるからそれはしまってくれ!」
「俺の質問に答えてからだ。では問う。貴様らの教祖は何者だ?洗礼名ではない本名と教祖になった経緯を教えろ。手短にな」
パウムはガクガクと震えながら教祖の秘密について話し始めた。
「き、教祖様のほ、本名はガレルドと仰っていました……2年前にこの地にやってきてから彼は病人や怪我人を治癒する奇跡をみせ、新たな教義を我々にお広めになりました……」
「ガレルド……か。教祖になる前は何をしていた?」
黒い兜の下から鋭い眼光が覗く。
化け物であるパウムをして背筋が凍るような視線であった。
「し、知らぬのだ……教祖様はこの地方に来られる以前のことをあまり語られぬ……他の幹部に聞いても同様だ!頼む!助けてくれ!」
黒騎士はがつりとパウムの頭を蹴り上げる。
彼に手加減をする気などさらさらない。
「うるさい。次だ。ガレルドはどうやって貴様らを化け物にした?その方法を教えろ」
「……き、教祖様が『神石』と呼ぶ小さな石を身体の何処かにはめ込み数時間祈祷を行う……そうすれば人間を超えられるのだ!我々は‼︎」
パウムは震えながらも自虐に似た嗤いを浮かべる。
黒騎士は黙ってその表情を見つめていた。
「……最後の質問だ。教祖はどんな化け物に化けやがる?弱点は何だ?」
「……頼む、もう勘弁してくれ!これだけしゃべったではないですか⁉︎もう許してくれ‼︎頼む‼︎」
「……そうか、ならばもう貴様に用はない。逝け」
そう言って黒い騎士は小瓶の中身の液体を哀れな蛇男に向かってドボドボと浴びせ掛けた。
彼はあっさりと化け物との約束を破った。
いや、初めから守る気などなかった。
「ギャアアアアアアアアアアアアア‼︎おのれェェェェ!だましやがったなぁぁぁぁぁ!」
硫酸でもかけられたかのようにパウムの顔や残った身体が白い煙を吐きながら溶けていった。
怨嗟の声を上げながらパウムの身体は液体から気体へと変わっていく。
「お前は今までどれだけの人間を騙してきた?糞のような人生だったな。悔いながら死んで行け」
甲冑越しからもわかるその冷たい瞳はパウムが昇天するまでじっと見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、アイラ!逃げるぞ!やべーよあいつ!」
黒騎士と蛇の化け物の戦いを最後まで見ていた少年と少女は驚いたが、気を取り直したセオが傍のアイラに声をかけ逃走を促す。
黒騎士の男は普通ではない。
あいつからも一刻も早く逃げなければならなかった。
「……セオ、身体は大丈夫なの?」
アイラが殴られたセオの身体を心配するようにじっと見つめる。
「そんなのいいから逃げるぞ!全力だ!」
「うん、わかった」
2人は手を取り合い樹々をかき分け野道を行くがその歩みがぴたりと止まる。
いつの間にか黒騎士が2人の進行方向へと回り込んでいたのだった。
「待てよ小僧ども。お前らはなぜ奴らに捕らわれていた?何か知っているか?知っていることを話せ」
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