18
久美子は森の中の昨日の大雨でぬかるんだ土色の道を歩きながら、ずっと自分の目の前にいる関谷さゆりの綺麗なツインテールの髪の動きを見ていた。(空中で揺れるその二本の髪はなんだかすごく綺麗んだった)
「さあ、ついたぞ、二人とも」
緩やかな坂道を登りきったところで信くんが言った。
随分と歩いたように感じるけれど、実際にはこの場所は御影小学校からそれほど離れている場所ではないはずだ。
そこには木の看板が立っていた。(ゲームのRPGとかで見かけるような大地に突き立てられた、立て看板だ)
その看板にはもうかなり古ぼけた文字で『時雨谷』の文字が書いていった。
「ここって、時雨谷(しぐれだに)なんだ。もう町の随分と端っこだね」と久美子は言った。その久美子の言葉通り、この場所は御影町よ隣町の町境になる森の中だった。
小高い山々の中に自然はあるが、ほかにはあるなんにもない場所。
(あるいは人間ではなく森の動物たちが暮らしている場所だ)
「こんなところになにがあるの? 如月くん?」さゆりが言った。
どうやらさゆりちゃんも久美子と同じ疑問を抱いたようだった。久美子もさゆりちゃんと同じように信くんを見た。
信くんとさゆりちゃん。そして久美子は幼い頃からずっと友達で幼馴染の関係であり、この御影町の森と山と川を遊び場として育った子供であり、さゆりちゃんと久美子が知らないで信くんだけが知っている森の秘密があるとは到底思えなかった。
実際、二人の記憶の中にある時雨谷は今、三人が登って来た道をのぞいて人間の作ったものはなにもなくて、(三人が今いる高台のような一応整地された土地はあるけれど)この道の先だって『ただの行き止まり』になっているはずだった。(ただ、小学校高学年になって、久美子とさゆりはあまりの中を探索などしなくなったのに対して、男の子の信くんは今も結構、カブトムシやクワガタを取ったり、川でイワナをとたりとかして、森や川の中に足を踏み入れているようだった)
「そんなことはわかってるよ。だから『それ』を見つけたとき、俺も驚いたんだって」鼻の下を指でこすりながら信くんは言った。
さゆりちゃんと久美子はお互いの顔を見合わせる。
「まあ、いいよ。見ればわかる。こっちだからついてこいよ」そう言って信くんは道の先に(そっちは行き止まりのはずだった)歩き出すと、戸惑っている二人に向かって手招きをした。
さゆりちゃんと久美子は一度、うなずいてから、そんな自信満々の如月信くんの背中について、森の中の道を歩いて行った。
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