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「そういえば、バスのときに三島がそんなこと言ってたな。確か」と考えごとをする顔をして信くんは言った。


 関谷さゆりはそれから、信くんと道草先生に『闇闇やみやみ』についての話を久美子に話した通りに、この場所でした。

 さゆりの話を聞いてから信くんは「そんなのこの世界にいるわけないじゃん」と笑いながらさゆりに言った。(さゆりちゃんは無表情のままだったけど、ちょっとだけむっとした表情をしていた。それから信くんが「いて!」と言ったので、机の下でさゆりちゃんは信くんのことを蹴っ飛ばしたようだった)

 でも道草先生は「いや、案外そうとも言い切れないよ」と真剣な顔をして三人を見ながらそういった。

「先生はやみやみの存在を信じてくれるんですか?」久美子が言う。

「……」さゆりは無言のまま先生を見る。

「道草先生。本気で言っているんですか?」さゆりちゃんを睨んでから、信くんがいう。

「もちろん本気だよ。その闇闇っている生き物はきっと人間の目には見えない生き物なんだ。でも、人の心の中には確かにその闇闇っていう生き物は存在する。闇闇は常にそうやって、いい子にしていない子に取り付いて、やがてその子を食べてしまって、悪い子に変身させてしまうんだね。これはそういう教訓のことを物語として誰かが考えたお話なんだ。きっと関谷さん。どこかでそんな小説を読んだんでしょ?」

 どう? 当たった? とでもいいたげな勝ち誇った顔をして道草先生はさゆりちゃんのことを見た。

「なるほど」と信くんはいう。

 そんな道草先生の顔を見て、はぁー、とでもいいたげな表情をしてさゆりちゃんは首を左右に振った。

 久美子もがっくりと肩を落とした。

 道草先生の言っている闇闇は久美子の知っている闇闇とはまるで違う生き物だった。久美子の見た、あの闇闇は人の目に見える、つまり実在する闇闇であり、決して人の心の奥に住んでいるという架空の(人の心の闇を具現化したような)存在ではなかったからだ。

「あれ? 違った? 絶対当たったと思ったんだけどな」と道草先生は信くんを見てそういった。

 信くんは「そうみたいですね」と呆れた顔をして先生に言った。


 それから鐘の音が鳴って給食の時間は終わった。

 闇闇のことが信くんと道草先生に伝わらなかったことは残念だったけど、一つ、とてもいいことがあった。それはあんな残念な反応をする道草細道先生は、先生の生徒である久美子たち生徒三人誰から見ても、『確かに本物の道草細道先生』に違いないという確信が持てたことだった。

 さゆりちゃんが確かめたかったことは、どうやら道草先生が(あのバスの運転手の大熊さんが闇川さんに変わっていたように)道草先生が闇闇に変わっているかどうか、ということだったらしい。

 お昼休みに教室の外に降るざーという大雨の音を聞きながら、三人で話をしているときにさゆりちゃんは久美子に「久美子ちゃんにも先生は本物の先生に見えた?」と確認をしてきた。

 その言葉に「もちろん。あれは絶対に道草先生だった」と久美子は答える。

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