第339話 違う人を選びましょう

「ええ。私達は六谷直己に戦う機会を得る資格があるかどうかをテストした。そのテストに六谷は落ちたのよ」

「それが死神による脅しってわけか」

 予告なし、不意打ちのテストとはひどくないかと感じたものの、神様を怒らせた発端は六谷にあるらしいのだから、文句は言えないんだろうな。

「公平にあなたもテストを受けておきたいと希望するのなら、すぐにでもかなえてあげられるけども」

「謹んで辞退申し上げる。現時点で、不要なことにまで割くエネルギーはない。話を戻して――私が新たな人物をパートナーに指名することは可能なんだよな?」

「言うまでもなく可能よ。六谷直己以外の人物を登録すればそれでおしまい」

「あ、そういうのではなくって、決定するまでに何日間かもらえないのかなと思ったんだ。無理なのかな」

「仮に認められたとして、どうやって選ぶつもり?」

「それは……」

 具体的に選ぶ方法は定まっていないが、選ぶ基準ならぼんやりと浮かんでいる。

「いや、これを言うと今の時点で手の内を明かすことにつながりかねない。伏せておきたい」

「そう。それが当然よね。どうしようかしら。新パートナー選びにどの程度の時間が欲しい?」

 この感触だと、幾ばくかの猶予をもらえるのは確実。でもどの程度の時間がいるのと問われても、物差しがないから答えづらい。勘で行くしかなさそうだ。が、交渉事の常道として、多めの数から始めるのも忘れない。

「四日、かな……」

「四日も?」

 あんた馬鹿じゃないとどやされそうな勢いである。

「一週間以内に対戦期日を決定するって言ってるのに、その半分以上の四日を求めるとはなんて厚かましい」

「悪い、正直言って分からないんだ。目安がない」

「――岸先生、いえ、貴志道郎さん。あなたまさか、古今東西の偉人の中からパートナーを選ぼうなんて思ったないでしょうね?」

「えっと。そんなことできるの?」

 思わず素に戻って聞き返した。古今東西ってことは、二〇〇四年の時点で死んでいる人も含むんだから、勝負事に強そうな偉人というと――。

「神様はたいていのことはできる。全知全能とか万能とか言うでしょ。けれども今回はなし! いずれにせよ私単独では無理だし」

 あ、さいですか。そりゃそうだよね。ビリー・ザ・キッドとか諸葛孔明、ダニエル・ダングラス・ホームといった何となく強そうな人達の名前を、頭の中から追い払う私。

「要するに、亡くなっている人は選べないってか」

「現代にて存命であることはもちろん、その人の今の姿で参加してもらいますから。たとえば若かりし頃はギャンブルの天才だったとしても、現在痴呆症のおじいさんだったら、まず戦力にならないわよってこと」

「現時点というのは二〇〇四年?」

「ああ、それがあったわ。あなたの来た二〇一九年ではないので注意を」

「そうか。じゃあ、天瀬美穂は候補から除かないといけないな」

 もしも二〇一九年の彼女を呼び寄せられるのなら、少なくとも私にとって心強いし、力が発揮できると思っていたのだが。小学六年生のままでは、さすがに心許ない。

 同じく年齢がネックで除外せざるを得ないのは、九文寺薫子さんもだ。当事者である六谷がリタイアの憂き目に遭った今、神様との四番勝負に代理出場するのが一番ふさわしいのは、もう一人の当事者、はっきり言って六谷以上に当事者本人である九文寺薫子その人以外に考えられない、自身の命に関わる事態となれば本人も必死で取り組むはず、と思っていたんだけどな。

 三人思い浮かんだ候補の内、二人があっさり消えた。残っている一人を口にする。

「それじゃあ、もう一人のきしみちお――岸未知夫先生を参戦させてもらいたい」

 どんな人なのか詳細は知らないし、面識すらないが、やはり当事者に準じる立ち位置にある人が強いと思う。巻き込まれて害を蒙ったという同じ立場でもあるのだから、息も合うんじゃなかろうか。

「残念ながら岸未知夫さんは無理よ」

 最早事務的ではなくなっていたが、冷淡な断定調で返答があった。

「どうして?」

「前に言ったでしょう、彼は別の世界で別の使命をこなすのに多忙な身であると」

「無論、承知している。その上で選んだんだ。一時的に二〇〇四年のこっちに戻して、勝負が終わったあと、異世界から姿を消した直後の時間にまた行ってもらう。こうすれば異世界での使命にも影響は最小限で済むんじゃないか」

「無理なものは無理。異世界送りと過去送りはそれぞれ別物なの。今言ったあなたの提案だと、岸未知夫先生は異世界送りプラス異世界での過去送りという扱いを受けることになるんだけれども、そんな仕打ちを受けた人類が未だかつていなくて、どんな事態になるのか分からない」

「前例がないだけで、不可能ではないってことだろ?」

「その通り。だからこそ、岸未知夫先生の身の安全は保証できないわ。そういう可能性があるのに、無理強いさせられる性格じゃないでしょうが、あなたという人間は」

「……異世界から岸先生を一旦戻して、こちらで消費した時間分だけ進んだ異世界に、また行ってもらうというのは安全に行えるんだよな。そういう意味に聞こえた」


 つづく


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