第321話 大鎌と違ってミニサイズならOK
「君はいいかい?」
ゼアトスに聞かれた神内は、否も応もないでしょうに思いつつ、
「イカサマは嫌いですが、やれなくはありません。受けて立ちます」
と宣言した。
一つの小さなテーブルを挟んで、神内とハイネは向かい合って座り、ディーラーが神内から見てテーブルの右側に立つ。ディーラー役はゼアトスが買って出た。
こうして勝負の火蓋が切って落とされた。
まず、始まる直前になって、「これを持っていると気合いが入りますので」とハイネが大鎌を取り出したのには驚かされた。ハイネは大鎌を持つのではなく、神内から見て左側に宙に浮かせた状態で制止させた。
「まるで僕を狙っているみたいだ」
カードをシャッフルしながら、ゼアトスが冗談めかして言う。するとハイネは恐縮した体と言っていいのか微かにお辞儀のような仕種をすると、「相済みません。できうる限り小さくしておきますのでお許しください」と応えた。その言葉の通り、宙に浮かぶ大鎌は段階的に――およそ三割ずつくらい――小さくなり、手で稲刈りをするときに使うようなサイズになった。これでもまだ凶器として使えるんじゃないの、そんなことしでかすとは思ってないけどなどと神内が考えていると、鎌はまだまだ縮小コピーをしたかのように縮んでいき、とうとう見えなくなった。いや、実際にはまだあるのだが、ようく目を凝らさないと捉えられないレベルに至った。微少な虫、蚊よりもさらに一回り小さな埃のようだ。
「あまりに小さくて、気合いが入るようにはとても思えないが、ハイネ君はそれでいいのかな?」
ゼアトスがさも気遣うような言葉で語り掛ける。ただしその表情は相変わらず薄く笑っていた。
「はい~。これ以上小さくせよと命じられたらどうしようかと頭を悩ませておりましたが、杞憂に終わり、胸をなで下ろす心地です」
死神は洞窟の奥深いところから何度も反響を繰り返したような声で答えた。
「それでは始めるとしよう。まず参加料として金貨一枚を供出してもらおうかな」
ゼアトスに言われた通り、神内とハイネはそれぞれの手持ちから一枚のコインをテーブルに置いた。これで、勝負せずにいきなり降りても一枚は損をする。
「ポーカーどころか何のディーラーもやった経験はないんだが、僕が好きなところでシャッフルを止めていいのかな」
「人間の定めたルールに基づく公式戦ではありませんし、その辺りはゼアトス様の判断でよいと思います」
尋ねられた神内は細かな説明を抜きにしてそう答えた。人間の作ったルールに厳密に従おうとするのであれば、複数あるルールのどれを採用するかで違ってくる。ワイルドカード――ジョーカーを入れるか否かは日本でもよくある選択肢だが、極端な話、カード自体をひと勝負事に全部交換するルールも存在する。
「じゃ、そろそろ配ろう。どちらのプレイヤーを先に配り始めるというのも、勝手に決めるよ」
断りを入れてから神内、ハイネの順に交互に配った。
(7のワンペアにキング、4、5が一枚ずつ。マークはばらばら、か)
自身の手札を確認した神内。とりあえずこの段階で降りるのか勝負を続けるのか、続けるのなら金貨を何枚賭けるかを意思表示しなければいけない。
(曲がりなりにも役ができたけれども、7は半分より下の低い数。4、5、7を一枚ずつ残してのストレート狙いも無謀。狙える役にあまり広がりはない。ここは序盤の戦い方の基本、様子見で)
相場が分からないが、神内は五枚の金貨を出した。
ハイネはというと手札をちらと一瞥しただけでその場に五枚のカードを伏せると、何やら考え込んでいるらしく、三十秒近く動きがなかった。ゼアトスが口を開きかけた矢先、黙って金貨五枚をすーっと幽霊みたいな手つきでテーブルの真ん中へと押し出した。
「受けるんだな?」
念のためという風に確認を取るゼアトス。ハイネはゆるりとうなずき、
「はい~、判断がお遅くてすみません。ここは私のような者にとってはちと、眩しいのです」
と答えた。眩しいと言いながら目を細めるでも顔をしかめるでもなし、感情を読み取りにくい面を崩そうとしない。
「交換は何枚かな?」
神内は少し考え、ワンペアとキング残しの二枚チェンジを選んだ。
(ワンペアだけ、つまり二枚だけ残すと、手札がワンペアなんだなと読まれる恐れが高まる。ツーペア以上に発展すればいいのだけれどそうならなかったときに負ける確率も高くなる。なので、ここは相手が手札を読みづらい道を選ぼう)
ちなみに残すもう一枚をキングにしたのは、相手のハイネの手札が神内と同じ7のワンペアだった場合、残りのカードでなるべく強い札を持っている方が勝ちとなるからだ。キングはエースの次に強い。
そして新たに配られた二枚を見ると――。
(クラブのエースにクラブの7。悪くないわ。7のスリーカードが完成した。最初っからスリーカードができていたように思われるかもしれないけれども、そこは結果論)
内心、密かにガッツポーズを決めた感じだ。もちろんこの喜びの感情、顔や身体のサインとして一切出していないつもりだ。
(さて、死神サンの様子は?)
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます