第131話 必勝なのか違うのか

 堂園が砂田を責める。なるほど、天瀬の持つ手札が一番強いとにらんだのであれば、ワンペアを当てて、砂田が持ったファイブカードは棚倉のフルハウスに当てるべきだったと言いたいようだ。無論、相手の指名もあることだからそう思惑通りに運ぶかは分からないが、少なくとも砂田がファイブカードを担当したのなら、わざわざ強い役同士の対戦に持ち込む必要はない。しかも女子側が賭けていたのはたった二ポイントなのだから、なおさらだろう。

「分かったよ。次から気を付ける」

「ほんとに? 砂田君、気合いが入りすぎでどうも暴走気味だから……」

「信じられないのかよ」

「まあまあ二人とも」

 後藤が割って入る。

「勝敗は横に置くとして、フォーカードをファイブカードで倒せたのは、結構気分よかったけどな、俺」

「……そういう考え方もありか」

 堂園が不承不承ながら納得したところで、ようやく第四戦に突入。ここは男子チームが再団結の効果を存分に発揮し、初めて4-3-3の配分を崩した上で、二勝一敗の六ポイントを獲得、勝利を収めた。全体では両チーム一本ずつ取った形になり、次の最終第五戦でけりを付ける。

「もし仮にまた引き分けに終わったらどうする?」

 私は六谷を呼び、意見を聞いた。

「五回戦って獲得したポイントの総合計で決めればいいかと思ったが、勝負の付いた三回戦と四回戦、どちらも六ポイント対二ポイントだったので同点だ」

「想像していたよりも一試合に時間が掛かっているので、じゃんけんかくじ引き……ああ、代表者を出してポーカーの一発勝負なんていうのもいいかもしれないです」

「それでいいよ。運不運よりはましだ。でもこれで決めるけどな」

 後藤達男子チームは、早く勝負したがっているようだ。先ほどの勝ちの勢いをそのまま持ち込みたいという気持ちの表れかな。

 ともかく、最終第五戦に突入。今回も女子チームの手札の動きを見ていた。細かなやり取りは省略し、カード交換後に組み直した手札を記すと、


天瀬 スペード、ハート、ダイヤのA スペード、ハートの3でフルハウス

君津 スペード、ダイヤ、クラブの10 ハート、クラブのJでフルハウス

棚倉 ハート、クラブのQ クラブの9、ハートの6、2でワンペア


 となった。配点は4、4、2。


 一方の男子は、手札は分からないが奇策に出てきた。堂園が8、後藤と砂田が1ずつという極端な振り分けをしてきたのだ。

「これはまずい。困ったわ」

 棚倉が真っ先に呟いた。どういう意味?とチームメイト二人が彼女の顔を見る。

「先ほどのファイブカードでこれをやられたら、私達の必敗だったのにしてこなかったから、気付いていないと思って、安心していたのよ」

 棚倉が天瀬達に理屈を説明する間、私も考えてみた。少し頭を捻ったら分かったので、それは案外、単純なロジックのようだ。

 先手番(対戦相手を先に指名できる)のときに運よくファイブカードを作ることに成功したチームは、残る二つの手札がどんなに低い役、たとえノーペアであっても、今男子チームがやったように8-1-1とポイントを振り分ければ、必勝である。もちろん8ポイントを賭けるのはファイブカードだ。ファイブカードの手札を、相手チームの一番ポイントが多い手札にぶつける。どんなに低く見積もっても、チーム内で一番多いポイントは四を下回ることはない。ファイブカードは単体では必ず勝つので、四ポイント獲得が確定する。このあと、ノーペアの手札二つが立て続けに負けても、分配した一ポイントずつを取られるだけ。ということは、相手チームは二ポイント獲得にとどまる。四ポイントvs二ポイントで、ファイブカードのあるチームの勝ちは最初から決まっている。

 このシミュレーションはあくまでもファイブカードができあがったときの話。問題は今、男子チームの手札に、ファイブカードができたのか、それともファイブカードよりは少し劣るが充分に強い役なのかだ。前者なら繰り返しになるが負け確定。後者なら、ひょっとしたらまだ望みはあるかもしれない。

 しかし……できあがった手札の中でフルハウス程度が一番強いのなら、八ポイントを賭けて勝敗を委ねようなんて思わないんじゃないか……。


 つづく

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